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薬局薬剤師のリスクマネジメント③|実践編(悪質クレームの対応)

薬局教育部

この記事は以下のような方におすすめです。

  • クレームをできるだけ未然に防止したい
  • 効果的なクレーム対応方法を身に付けたい
  • 悪質なクレームに対処する方法を知りたい

前回に引き続き、今回は、『薬局薬剤師のリスクマネジメント』のシリーズ最終回の3回目です。

現場ではまれに、必要以上にクレームをつきつけて薬局内に長く居続けたり、謝罪・土下座などを要求してくる悪質クレームに発展するケースがあります。

そこで今回は、現場で起こるクレームの中でも、なかなか解決困難な悪質クレームの具体的な対応方法について紹介していきます。

前回までの復習

薬局薬剤師のリスクマネジメント(クレーム対応)について3回シリーズで紹介してきました。

第1回目では、クレームとは相手の要求であるということから始まり、それに対してこちらに過失がある場合と、ない場合の対応方法について解説してきました。

クレームの本質

こちらに過失がある場合は、最敬礼で謝罪を行う対応を行い、

第2回目では、こちらに過失がない場合は、相手の気持ちに寄り添いながら、法律遵守の視点での対応を紹介してきました。

今回は、こちらに過失がない場合でのクレームの中でも、特に悪質なクレームについてどのように対応するかについて具体的に解説していきます。

悪質クレームの5つの対応例

悪質クレームはどのように対応すれば良いの…?

あなたも今まで薬局で勤務してきて悪質なクレームに出会ったことはありませんか?

私は何度もあります。

悪質クレームを受けた時は、クレーマーのペースにハマったらこちらの負けです。

相手は早口でまくし立てたり、ゆっくりと押し殺した声で迫ってきたり、話し方はクレーマーによって様々ですが、その雰囲気に飲み込まれるとこちらが冷静な判断ができなくなります。

また下手な応対をして、言葉尻をとられでもしたら、さらに追い込まれます。

そこで、悪質クレーマーのペースにハマらないための5つの対応方法を紹介します。

沈黙する

例えば1つの方法として沈黙する方法があります。

こちらの対応としてひたすら黙り込むを決めこめば、クレーマーのペースにハマることがなくなります。

事例を紹介するとこんな感じです。

沈黙する事例
  • クレーマー「こんなミスをしてどうしてくれるんだよ!」
  • 薬局スタッフ「申し訳ございません」
  • クレーマー「中し訳ございませんじゃねーんだよ。こっちはどうしてくれるかって聞いてるんだよ」
  • 薬局スタッフ「 ……(沈黙)」
  • クレーマー「聞いてんのかよ」
  • 薬局スタッフ「はい」
  • クレーマー「どうなんだよ」
  • 薬局スタッフ「 ……(沈黙)」

最低限の応答だけはして肝心なところは沈黙を決め込む方法です。

一向に進展しない会話に、クレーマーは完全にベースを乱されます。

とくに薬局の店頭など、他の患者さんがいる場面では『弱いものいじめをしてる人』と思われることを恐れ、居づらく去っていく可能性が高くなります。

オウム返しのみで対応

オウム返しで応酬するのも悪質クレーマーのベースにハマらない対応方法のひとつです。

理不尽な要求を執拗に繰り返す悪質クレーマーには、まともに取り合う必要はありません。

たとえこちらに非があっても、常識の範囲内できちんと謝罪、賠償をしたならそれ以上関わる必要はないのです。

事例を紹介するとこんな感じです。

オウム返しのみで対応する事例
  • クレーマー「どうしてあんな失礼なスタッフをまだ雇ってるんだ」
  • 薬局スタッフ「先日は大変失礼をいたしました。先日の件は、あのあと、厳しく指導いたしました。本人も十分反省しておりますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします。」
  • クレーマー「そうじゃねーだろ。失礼があったんだから、あいつが直接、俺の家まで謝りに来るのが筋だよな」
  • 薬局スタッフ「直接患者様に家に謝りに行くのが筋だということですね…」
  • クレーマー「そうだよ、俺が直接きっちり指導してやるよ」
  • 薬局スタッフ「きっちり指導してくださるということですね…」
  • クレーマー「そうだよ、ありがたい話だろ?」
  • 薬局スタッフ「キッチリ指導していただくのが、ありがたい話だということですね…」
  • クレーマー「そうだよ!どうすんだよ!」
  • 薬局スタッフ「どうすんだよ?と問われてるのですね 」
  • クレーマー「だからどうするんだ?」
  • 薬局スタッフ「だからどうすんだ?とおっしゃっるんですね…」
  • クレーマー「・・・・」

相手の言ったことをそのままオウム返しすれば、 話は一向に前に進みません。

あきれて相手が戦意喪失するのを狙います。

注意点は『バカにしている』と取られて別のクレームにならないように、真顔で対応することが重要です。

理不尽な要求に対してはまともに相手にしてはいけません。

ビビった態度を見せると、クレーマーはつけあがるので、『聞く耳持たない』という態度を
ハッキリと示しましょう。

切り返し・応酬話法

悪質クレーマーが大声で叫んだり、 脅しの言葉をかけるのは、対応者のペースを乱し、自分のペースにハメるためです。

相手のペースにハマってしまえば、悪質クレーマーの思うツボです。

悪質クレーマーは、対応者を自分のペースにハメるために、返答や対応に困る言葉を浴びせてきます。

対応者を言葉につまらせることで、自分のペースに引きずり込もうとしているのです。

しかし対応者があらかじめ質問の答えを用意しておけば、言葉に詰まることはありません。

返答次第では、逆に悪質クレーマーを追い詰め、こちらのペースに巻き込むことが可能です。

悪質クレーマーがよく言うセリフとその切り返しを3つほど紹介します。

クレーマーに絡まれた情景をイメージしながら読んでいただければ、それだけでいざというとき役立つでしょう。

応酬話法①
  • クレーマー「土下座するなら許してやるよ!」
  • 薬局スタッフ 「患者様は私に土下座を強要なさるのですか?これは脅迫と理解してもよろしいでしょうか?」

相手の振るまいが違法であることを教えてあげれば、クレーマーは言葉に詰まります。

応酬話法②
  • クレーマー「謝ってすむなら警察いらねーだろーが!」
  • 薬局スタッフ「もちろんです。私どもも警察は不要であると認識しております」
  • クレーマー「じゃあ、どうしてくれるんだよ!?」
  • 薬局スタッフ「どうすればいいか、具体的におっしゃってください」

もしクレーマーが「お金で解決してやるよ」などと言えば、『恐喝罪』成立です。

応酬話法③
  • クレーマー「どうすればいいかくらい、自分で考えろよ。 分かるだろ?」
  • 薬局スタッフ「申し訳ございません。私には理解できないものですから、患者様が具体的にどうなさりたいか、 おっしゃってください。」
  • クレーマー「具体的に言えば、そのとおりにしてくれるって事なんだな?」
  • 薬局スタッフ 「あくまでもお客様のご要望として承ります。その上で、薬局としての判断ということになります」

こちらが「お金で解決を…」などと言ってはいけません。

それが悪質クレーマーの本当の狙いです。

他にも、悪質クレームには下記のような様々な事例がありますが、こういった事例の応酬話法を前もって用意しておくと、焦らずに対応することができます。

その他の事例
  • 「どう責任を取るのか文書を書け」
  • 「表沙汰にしてもいいのか?」
  • 「訴えるけど、それでいいのか?」
  • 「あいつをクビにするか、 土下座させろ」
  • 「お前の住所と電話番号教えろ!」
  • 「お前じゃ話にならない。上司を出せ!」
  • 「誠意を見せろ!」

できるだけ2人で対応

私はいつも現場を見ていて思うのですが、

クレームを受けている時に、たった一人で対応したり、店長(管理薬剤師)だけに対応を任せるのは少し違うと思っています。

クレームは、原則、受けた方が対応します。

ただ、ここで紹介しているような悪質クレームは、一人で対応するには荷が重すぎます。

必ず2人以上で対応するようにしましょう。

そうすることで、こちらにも余裕ができ、前もって準備した応酬話法も伝いやすくなります。

決して一人だけで対応しないようにしましょう。

110番通報する

悪質クレームの対応でどうしても埒があかない場合は、110番通報をしましょう。

その際には、

『患者様、スタッフも他のお客様も怖がっています』
『これ以上○○されるなら、警察を呼ばせていただきます』

と一言ことわってから110番通報しましょう。

またこういったことが起こらないように、

例えば、普段から各都道府県の警察のカレンダーなどを待合室に掲示したりして、警察関係者の出入りが薬局にあることを示しておくのも有効です。

悪質クレームで適応される違法行為と法律

悪質クレーマーは法律の知識を身に付けている場合が多いです。

法律違反ギリギリのふるまいで薬局側を精神的に追い詰めます。

悪質クレーマーの狙いは、薬局を困らせ、解決策として、金銭を提供をさせることです。

そのために、大声で暴言を吐き、脅しにかかります。

しかし、その脅しに震え上がれば、悪質クレーマーの思うツボです。

脅しに屈しないためには、法律の知識を身につけることが大切です。

相手のやっているこ とが、違法行為や違法とも取れるグレーゾーンなら怯えることはありません。

そのことを通報すれば、警察が仲介に入って解決してくれます。

そもそも、悪質クレーマーがあからさまに違法行為をする確率など低く、悪質クレーマーは違法行為を通報されることをビビっています。

法律内の制限された範囲でしか、脅してこないと心得ましょう。

法律の知識を身に付けて、相手のやってることが違法とわかれば、こちらも堂々と対応できるものです。

違法行為をする者に対して、こちらが下手に出る必要はありません。

相手のペースに巻き込まれることなく、物怖じせずに対処できるよう、知っておくべき法律を
紹介します。

威力業務妨害(刑法234条)

薬局内で店員の制止に従わず大声を出し続けると、威力業務妨害(刑法234条)で3年以下の懲役または50万円以下の罰金。

脅迫罪(刑法222条)

謝罪の姿勢を示し、常識内の補償・賠償を提案しているにもかかわらず、執拗に「どうしてくれるんだよ!」と迫り続けると、脅迫罪(刑法222条)で2年以下の懲役又は30万円以下の罰金。

恐喝罪(刑法249条)

「許して欲しければ金を出せ」と言ってお金の受け取りが成立したら、恐喝罪(刑法249条) で10年以下の懲役。

恐喝罪には罰金刑はなく、刑事裁判で有罪となれば必ず懲役刑が適用されます。

恐喝未遂罪(刑法250条)

最終的にお金の受け取りがなくても、要求しただけでも、恐喝未遂罪(刑法250条)で、同じく10年以下の懲役。

恐喝罪と同様に懲役刑のみ。

強要罪(刑法223条)

無理やり土下座させたり、謝罪文を書かせれば、強要罪(刑法223条)で3年以下の懲役(未遂でも適用される)。

強要罪に関しても罰金刑は無く、懲役刑のみ。

不退去罪(刑法130条)

「どうぞお引取りください」と伝えたが「納得できない」と居座り続けたら、不退去罪(刑法130条)で3年以下の懲役または10万円以下の罰金。

↓↓↓

悪質クレームによく適用される法律だけでもこんなにあります。

ここで挙げたような違法なふるまいをされたら「警察に通報させていただきます」 と通報の姿勢を見せるだけでも、悪質クレーマーは逃げ出すでしょう。

本来なら法律ギリギリの悪質クレームを受けたら通報するのが一番良いのですが、

できるだけ警察を呼ばずに解決したいのなら「それは恐喝ですか?」「土下座を強要されるのですか?」と相手に問いただして、法律に詳しいことをアピールしましょう。

悪質クレーマーは、自分の違法行為を見抜かれてると分かると、とたんにおとなしくなります。

まとめ

今回は、こちらに過失がない場合のクレームの中でも、特に解決困難な悪質クレームの対応について具体例を用いて解説してきました。

悪質クレームに対しては、ここで紹介してきた通り、前もって応酬話法を準備しておき、2人以上で対応することが一番の対処法です。

あなたの薬局でも万が一に備えて、前もって準備しておきましょう。

これで薬局薬剤師のリスクマネジメントの3回シリーズ終了です。

いかがだったでしょうか?

クレームの本質は『相手の要求』です。

そのことを理解した上で、こちらが過失がある場合、過失がない場合の対応を解説してきたのでしっかりと身につけていきましょう。

そして、ぜひ今回紹介してきた3つの記事を何度も何度も読んで、クレーム対応力を身に付けていってくださいね。