薬局で働いていると、毎日のようにさまざまな問題が起こります。

人が足りないんです!
業務が忙しくて、いつも残業になってしまう……
管理薬剤師になると、こうした現場の困りごとに対して、判断や対応を求められる機会が増えてきます。
でも、ちょっと考えてみてください。
目の前で起きていることが、本当に解決すべき問題なのでしょうか?
例えば、「人が足りない」と言われたからといって、原因が必ずしも人員不足とは限りません。
業務の進め方や役割分担など、別のところに改善のヒントが隠れていることもあります。
つまり、目の前で起きている「現象」と、本当に解決すべき「問題」は、必ずしも同じではないのです。
今回は、管理薬剤師として身につけたい「問題を見つける力」について、薬局現場の具体例を交えながら考えていきましょう。
✅今回のテーマ
問題を見つける
✅今回の目的
目の前の「現象」と「問題」を区別し、自分の薬局の「現状」と「あるべき状態」のギャップから、解決すべき問題を一つ明確にする。
✅今回の実践
STEP2で見つけた気になることを「現状 → あるべき状態 → ギャップ」に整理する。
✅前STEPから使うもの
STEP2で観察した薬局の様子や、気づいたことのメモ。
※この記事だけを読んでも実践できるようにしています。初めて読む方は、今の薬局で気になっていることを一つ思い浮かべながら進めてください。
問題を解決する前に、まず問題を見つける
管理薬剤師になると、スタッフからいろいろな相談を受けるようになります。
例えば、

人が足りないので、増員してほしいです
こんな相談を受けたとします。
確かに、実際に人員が不足している場合もあります。
でも、ここで管理薬剤師がすぐに「人を増やさなければ」と考えてしまうと、ほかの原因を見落とす可能性があります。
スタッフが「人が足りない」と感じている背景には、さまざまな事情が考えられるからです。
例えば、
- 業務が特定の時間帯に集中しているのかもしれません
- スタッフの役割分担がうまくいっていないのかもしれません
- 同じ作業を何度も繰り返していたり、薬局内の動線が悪かったりすることもあります
もちろん、調べた結果、本当に人員を増やす必要があると分かることもあるでしょう。
大切なのは、最初に出てきた答えを、そのまま原因や解決策として決めつけないことです。
私はこれまで、管理薬剤師やエリアマネージャーとして、さまざまな薬局の問題に関わってきました。
その中で感じていることがあります。
それは、目の前で起きている現象だけを一時的に解決しても、その背景にある問題が残っていれば、今度は別の形で問題が表面化することがあるということです。
だからこそ、解決策を考える前に、まず何が問題なのかを整理する必要があります。
「現象」と「問題」は同じではない
問題を解決するためには、まず現象」と「問題」は同じではないことを理解しておく必要があります。

「現象」とは、目の前で実際に起きていることです。
一方、「問題」とは、「現状」と「本来あるべき状態」との間にあるギャップ(差)のことです。

つまり、目の前の現象だけを見るのではなく、「今はどうなっているのか」「本来はどうあるべきなのか」を考えることが、本当の問題を見つける第一歩になります。
例えば、患者さんから待ち時間についてクレームを受けた薬局を考えてみましょう。
現象
✅患者さんから「待ち時間が長い」と言われた
これだけでは、まだ何を改善すべきなのかが十分に整理できていません。そこで、次のように考えます。
現状
✅待ち時間について患者さんから不満の声がある
✅混雑時にはスタッフも忙しそうにしている
✅患者さんへの待ち時間の説明が十分にできていない場面がある
あるべき状態
✅調剤・監査など必要な安全確認が確実に行われている
✅不必要な業務の停滞が少ない
✅患者さんが待つ理由や見通しを理解でき、安心して待てる
ギャップ
安全な調剤に必要な時間を確保しながら、業務の停滞を減らし、患者さんに待ち時間の見通しを伝える体制が十分に整っていない。
このように整理すると、単に「待ち時間を短くする」という発想とは違う問題が見えてきます。
ただし、これは説明のための仮想例です。実際の薬局では、観察やスタッフ・患者さんの声から現状を確かめる必要があります。
また、ここで挙げたギャップは、まだ原因を特定したものではありません。何が原因でそのギャップが生じているのかは、次のSTEP3-2で考えていきます。
待ち時間を短くするだけでは、問題解決にならない

ここは、管理薬剤師として特に意識してほしいところです。
患者さんから待ち時間のクレームがあったとします。では、待ち時間を短くできれば、それで問題は解決したと言えるでしょうか?
私は、必ずしもそうではないと思っています。
薬局では、処方箋の内容を確認し、必要な調剤や監査を行い、患者さんに適切な説明をする必要があります。これらの業務には、当然ながら時間がかかります。
待ち時間の短縮ばかりを優先して、必要な監査や確認がおろそかになり、調剤過誤につながってしまっては本末転倒です。
大切なのは、必要な安全確認を守りながら、無駄な作業や停滞を減らすこと。そして、患者さんが待ち時間の理由や見通しを理解し、納得できるように働きかけることです。
もちろん、待ち時間が長くなっても説明さえすればよい、という意味ではありません。
不要な待ち時間は減らす必要がありますし、患者さんから不満の声が出ていなくても、困っている方がいるかもしれません。
だからこそ、時間の長さだけではなく、患者さんの声、スタッフの様子、業務の流れ、安全性などを合わせて見ることが重要になります。
医療安全に関わる問題は、対応の順番が違う
ここで、一つ大切な注意点があります。
調剤過誤や患者さんの安全に関わる緊急の問題が起きた場合は、原因をゆっくり分析する前に、必要な安全確保や患者対応を優先しなければなりません。
まず危険を取り除き、必要な報告・連絡・対応を行う。そのうえで、原因を調べ、再発防止につなげます。
緊急時の安全確保と、通常の業務改善のための問題発見は、区別して考えましょう。
管理薬剤師は、自分の目で現場を見る

私はエリアマネージャーとして薬局の問題に関わるとき、必要に応じて自分も白衣を着て現場に入っていました。
実際に業務をしながら、スタッフがどのように動いているのか、仕事がどこで止まっているのか、何度も同じ作業をしていないか、といったことを自分の目で確認していたんです。
例えば、待ち時間の問題を考えるときには、次のような点が気になります。
業務量はどうなっているか?
曜日別、時間帯別に処方箋がどのくらい集中しているのか。
処方内容にはどんな特徴があるか?
一包化が多いのか、散剤や水剤が多いのか、比較的単純な処方が多いのか。
同じ処方箋1枚でも、必要な作業量は違います。
人員配置や役割分担はどうなっているか?
薬剤師と調剤アシスタントが、どの時間帯に、どの業務を担当しているのか。
薬剤師以外のスタッフに任せられる業務についても、法令・通知や必要な安全管理の範囲を守ったうえで、役割分担を考える必要があります。
設備や動線に無駄はないか?
プリンターの位置、医薬品棚の並び方、調剤室のレイアウト、作業の重複などです。
こうしたことは、実際に現場に入ってみると気づくことがあります。
ただし、ここで注意してほしいのは、これらを見ただけで原因が分かったと思わないことです。
例えば、プリンターまでの移動が多いからといって、必ずしもそれが待ち時間の主な原因とは限りません。
STEP3-1では、まず気になる事実や状況を見つけて記録する。その原因を検証するのは、次の段階です。
スタッフの声は、問題を見つける大切な手がかり
もう一つ、私が大切にしてきたのはスタッフの声です。

人が足りない
忙しくて仕事が回らない
いつも同じ人に仕事が集中している
こうした声を聞いたとき、管理薬剤師として、すぐに否定するのは避けたいところです。
実際にスタッフは困っているのですから、まずその困りごとを受け止める必要があります。
ただ、その言葉をそのまま問題の原因として確定するのも早いかもしれません。

どの時間帯が特に大変なの?
どんな作業をしているときに困る?
最近、以前と比べて何か変わったことはある?
こんなふうに話を聞いてみると、現場の状況が少しずつ見えてくることがあります。
私は、相手の性格や状況によって、伝え方や話の聞き方を変えてきました。
こちらから気づいたことを伝える場合もあれば、困っている様子を察して声をかける場合もあります。
大切なのは、管理者が最初から答えを決めてしまわないことです。
スタッフの声と、実際に確認した現場の状況。その両方を大切にしながら、何が起きているのかを整理していきましょう。
問題の見つけ方を間違えると、別の問題が生まれる
ここで、私が今までしてきた失敗例を振り返ってみましょう。
失敗例① 残業時間を減らすことだけを目標にした
スタッフの残業が増えてきたため、とにかく残業時間を減らすことを優先したケースです。
一時的には残業時間が減りました。
しかし、業務の進め方や役割分担を十分に見直さないまま時間だけを削減したため、患者対応の質が低下するなど、新たな問題が生まれてしまいました。
ここで考えたいのは、残業時間が長いこと自体だけでなく、なぜ残業が必要な状態になっているのか、ということです。
また、「あるべき状態」を単純に「残業時間が短いこと」と設定してしまうと、業務の質や安全性を見落とす可能性があります。
失敗例② 新しいシステムを導入することが目的になった
患者さんの待ち時間を改善するため、新しいシステムを導入したケースです。
ところが、導入後も期待したほど改善しませんでした。
もともとの問題が、システムだけでは解決できない業務の流れやスタッフ間の連携などにあったためです。
ここで注意したいのは、システムの導入は「あるべき状態」ではなく、そこへ近づくための手段の一つだということです。
何を実現したいのかが曖昧なまま、手段を先に決めてしまうと、期待した改善につながらないことがあります。
どちらの例も、問題を十分に整理する前に解決策へ進んでしまったケースです。だからこそ、問題解決は最初が大切なんですね。
やってみよう|今回のワーク
自分の薬局の「問題」を一つ見つけてみよう
ここまで学んだことを使って、自分の薬局で実際に起きている問題を一つ整理してみましょう。
STEP2では、患者さんの目線で薬局を観察し、「良いところ」や「気になるところ」を見つけました。
今回は、その中から「気になること」を一つ選び、解決すべき問題を明確にすることが目標です。
STEP2をまだ読んでいない方は、普段の業務で気になっていることを一つ選んでも大丈夫です。
まずは、記入例を見てみましょう
問題を見つけるときは、「現状」「あるべき状態」「ギャップ」の3つに分けて考えると整理しやすくなります。

このように、目の前で起きていることと、本来目指したい状態を比べることで、何を改善したいのかが見えてきます。
実際に書いてみよう
① 気になること・現状を書く
例:「患者さんから待ち時間が長いと言われることがある」
まずは、実際に何が起きているのかを書き出します。
患者さんにはどのような困りごとが生じているのかも考えてみましょう。
このとき、実際に確認できた事実と、自分やスタッフの推測を混同しないことが大切です。
② あるべき状態を書く
例:「安全確認を確実に行いながら、待ち時間の負担を減らせている」
「本来、どのような薬局でありたいか」を考えてみましょう。
待ち時間の短縮だけでなく、患者さんの安全や納得感、スタッフの働きやすさにも目を向けてみてください。
③ ギャップを書く
例:「患者さんの待ち時間の負担が、十分に軽減されていない」
現状とあるべき状態を比べ、どのような違いがあるのかを書き出します。ここで大切なのは、まだ原因や解決策を決めつけないことです。
まずは「何を改善したいのか」を明確にできれば十分です。
📘 実践ワークブックに記入しよう
『初めての管理薬剤師・薬局長 実践ワークブック』の10ページ「問題を解決する①」を開いてください。
STEP2で見つけた気になることを一つ選び、次の記入欄を順番に埋めていきましょう。
- 今回取り上げる「気になること」
- 患者さんには何が起きている?
- 今はどうなっている?
- 本当は、どうなっていてほしい?
- その間にあるギャップは?
長い文章を書く必要はありません。まずは、自分の言葉で短く整理してみましょう。
薬局の問題発見チェックシート
「何を確認すればよいか分からない」という方は、次のチェックシートを参考にしてください。
薬局で起きていることを、さまざまな視点から見直すためのヒントです。

すべての項目を一度に調べる必要はありません。まずは、自分が気になっていることに関係する項目から確認してみましょう。
例えば、待ち時間が気になる場合には、患者さんの様子だけでなく、受付が集中する時間帯や処方内容、スタッフの配置などにも目を向けると、現場で何が起きているのかを把握しやすくなります。
ただし、チェックシートで気づいたことが、そのまま問題の原因とは限りません。
「人が足りないから」「調剤に時間がかかるから」と、最初から原因を決めつけないようにしましょう。
次のSTEP3-2では「なぜ?」を考えます
今回のワークで、解決したい問題を一つ明確にできたでしょうか。
次のSTEP3-2では、その問題が「なぜ起きているのか」を考えていきます。
原因だと思っていたことが、本当に事実なのか。それとも、まだ確認していない推測なのか。
実際の薬局現場を確認しながら、問題の原因を一緒に掘り下げていきましょう。
振り返り|今回の学びを確認しよう
最後に、次の3つを振り返ってみてください。
- 今まで「問題」だと思っていたことが、実は現象や原因の推測だったことはありませんか?
- 自分の薬局の「あるべき状態」を、具体的に説明できますか?
- 現状とあるべき状態のギャップを、一つ書き出せましたか?
最初から完璧に整理できなくても大丈夫です。
管理薬剤師として大切なのは、目の前で起きたことにすぐ反応するだけでなく、一度立ち止まって「本当に何を改善すべきなのか」と考える習慣を身につけることです。
この習慣があるだけでも、問題への向き合い方は変わってくると思います。
まとめ|問題解決は、問題を正しく見つけるところから始まる
今回は、管理薬剤師として身につけたい「問題を見つける力」についてお話ししました。
覚えておいてほしいのは、次のことです。
- 目の前で起きている現象が、そのまま解決すべき問題とは限らない
- まず現状を確認し、あるべき状態を考え、そのギャップを明確にする
- スタッフの声を聞きながら、自分の目でも現場を確かめる
そして、私は、管理薬剤師がすべての問題の答えを一人で出す必要はないと思っています。
むしろ、スタッフと一緒に問題を見つけ、考えられる薬局をつくっていくことが大切です。
そのための第一歩が、今回の問題発見です。
次回のSTEP3-2では、今回見つけた問題について、「なぜ、そのギャップが生まれているのか?」を考えていきます。
「人が足りない」という声の背景には何があるのか。
処方箋の受付状況、処方内容、役割分担、業務の流れなどを手がかりに、事実と推測を区別しながら原因を考える方法を学びましょう。
次のSTEPへ進もう!
今回学んだ「問題を見つける力」を使って、次はその原因を考えていきましょう。
NEXT STEP|STEP3-2
問題の原因を考える
見つけた問題について、事実と推測を区別しながら「なぜ起きているのか」を整理します。
実践ワークブック(無料PDF)
今回の記入ページ:10ページ「問題を解決する①」



















患者さんから待ち時間が長いとクレームがあった……