前回に引き続き、今回は、『薬局薬剤師のリスクマネジメント』のシリーズの2回目です。
クレーム対応は誰にとっても嫌なものかもしれませんが、手順に則って応対すれば、必ず解決の糸口が見えてきます。
今回は、現場でよく起こる代表的な3つのクレーム事例を取り上げ、その具体的な対応方法について紹介していきます。
目次
前回の復習
前回は『薬局薬剤師のリスクマネジメント』の1回目として、まずは『そもそもクレームはなぜ起こるか?』について5つの要因を紹介してきました。
5つの要因の対応方法はそれぞれ異なりますが、いずれもクレームは『相手からの要求』が根底にあることを紹介してきました。
そして、クレームの5つの要因のうち、こちらの過失がある場合とない場合に分類し、過失がある場合の事例紹介とその初期対応に関しても解説してきました。
そして、こちらに過失がある場合の初期対応は、『最敬礼による謝罪』で応対することが重要であるとお伝えしてきました。
そこで今回は、こちらに過失がない事例について3つ紹介し、その応対方法について具体的に解説していきます。
こちらに過失がない事例対応の重要ポイント
例えこちらに過失がない場合であっても、偉そうな態度をとってしまうと相手の態度はますますヒートアップしてしまいます。
かといって謝罪だけで済ますわけにもいきません。
そこで重要な初期対応としては、下記の3つの手順をしっかりと抑えておきましょう。
- 謝罪する
- 相手の話を傾聴する
- クレームの背景を探る
では1つずつ解説していきます。
謝罪する
まずは謝罪しましょう。
えっ! こちらに過失がないのに謝罪するの…?
そう思うかもしれませんね。
ただ今回の事例の謝罪は、前回紹介したこちらに過失がある場合の最敬礼の謝罪ではなく、
あくまで相手が気分を害してしまっていることに対して、こちらに何か不備があったかもしれないことに対しての謝罪です。
ここは間違わないようにしておきましょう。
例えば、相手が『謝るということはそっちに非があることだな』と言ってくる場合もあるので、
その際には、『今、患者様が気分を害されているので、そのことに対して謝罪させていただきました』と論点を間違わないように相手にきちんと伝えていきましょう。
相手の話を傾聴する
そして次は傾聴です。
こちらには過失がないので、相手の要求は受けることはできないのですが、
相手は自分の要求を聞き入れてもらいたいという気持ちでクレームを言ってきているので、まずは相手の言い分を間違っていたとしても軽くあしらわずにしっかり聴く姿勢で応対します。
ここで重要になってくるのが受容的態度と傾聴のスキルです。
これに関しては、このサイト内の記事で紹介しているので参考にしてください。
ここで相手の話をしっかりと聴き切ると、それだけでも相手は徐々に落ち着いてくるケースがかなり多いです。
クレームの背景を探る
相手の気分を害してしまったことに対する謝罪と、受容的態度と傾聴のスキルを使った応対で、相手は少しずつ落ち着いてきます。
そしてこの後は、クレームは『相手からの要求』であることを踏まえた上で、相手の要求は何なのかを探っていきます。
ここでの相手の要求の探り方についても、このサイト内の記事で紹介しているので参考にしてください。
このように、クレームを要求に変換することで、顧客が何を求めているかを明確に捉えて、それを見つけることができれば、クレーム対応の前準備は完了です。
では次に、3つの事例を用いてその対応の仕方について具体的に解説していきます。
【事例①】お薬が足りない
まずは1つ目の事例です。
このクレーム内容を相手の要求に置き換えると、次のようになります。
お薬が足りない
→足りないお薬を今ここで欲しい
まずはこういった要求があることを認識し、共感したあとに、今回の要求が残念ながら受け入れないことを伝えていきます。
そこで、この事例の対応のポイントしては以下の通りです。
- 金銭貸借は完了している。
- 監査機器、在庫確認でお渡しした薬に間違いがない
- 患者さんは薬局敷地内で申し出ていない
- 薬をお渡しする必要はない
『金銭貸借』という少し難しい法律用語が出てきましたが、こういった言葉を敢えて使うことで法に則った対応をしていることを相手に伝えることができます。
そして、応対話法はこんな感じになります。
コンピューターによる在庫数とお薬お渡し時の写真を調べた結果、患者様には処方箋通りのお薬をお渡しいたしました。
残念ながらお薬をお渡しすることはできません。
応対話法では、『残念ながら』という言葉を入れていくようにしましょう。
そうすることで、『本当はあなたの要求に応えてあげたいが今回は私も残念なのですができない』という気持ちが相手に伝わります。
【事例②】期限切れの処方箋
2つ目の事例です。
このクレーム内容を相手の要求に置き換えると、次のようになります。
期限切れの処方箋を調剤して
→ 期限切れの処方箋でも薬を出してほしい
先程と同様に、こちらの事例も一部の例外を除いて対応ができません。
そこで、この事例の対応のポイントしては以下の通りです。
- 保険医療機関及び保険医療養担当規則第20条、21条
- 長期の旅行など医師が必要と判断した時のみ延長は可能
- 期限延長はできない(違法行為)
- 疑義照会はしてはならない
- 新たに発行してもらうしかない
これに関しては、4日を超えた処方箋による保険調剤業務は、一部の例外を除き、法律で禁じられているので、保険薬局の法律遵守による対応をしていきます。
疑義照会で処方延長を依頼すれば親切なドクターなら『延長を認める』と言ってくれるかもしれませんが、法律違反になってしまいます。
法律で禁止されていることに関してドクターを巻き込むのは良いとは言えませんね。
そして、応対話法はこんな感じになります。
4日の期限を過ぎた処方箋調剤は法律上禁止されています。
もし薬局がお薬をお渡しすると違法行為となり、患者様にもご迷惑がかかります。
残念ながらお薬はお渡しできません。
今回の場合は、法律で規定されていることなので、お断りする際には『法律上禁止』されていることを応対に入れていくと良いでしょう。
そして、法律違反に患者さんを巻き込むわけにはいかない旨も伝えておくと良いでしょう。
【事例③】お薬が効かないから返品・返金
3つ目の事例です。
このクレーム内容を相手の要求に置き換えると、次のようになります。
お薬が効かないから返金して
→ まだ未使用なので、返品・返金をしてほしい
医薬品も未開封・未使用なら返金できると思っている患者さんは、まれにいらっしゃいますね。
そこで、この事例の対応のポイントしては以下の通りです。
- 処方箋に基づき調剤し薬を渡す行為は、単なる商品の売買ではなく、健康保険上の『療養の給付』なので診療や治療と同様に位置づけられる(健康保険法第63条)。
- 調剤薬局で『療養の給付』として渡した薬についても、返金できる性質のものではないと法律上解釈されています。
まずここで重要になってくるのは、処方箋調剤は『療養の給付』として法律で位置付けられていることです。
例えると、医薬品の返品・返金は、病院の診察を受けて、異常がなかったから診察料を返金してくださいと言っているのと同じ意味になります。
つまりこのケースも、相手の要求は受け入れることができません。
そして、応対話法はこんな感じになります。
処方された医薬品の返品は法律上禁止されています。
もし薬局が返品を受け付けると違法行為となり、患者様にもご迷惑がかかります。
残念ながら返金は致しかねます。
先ほどの【事例②】と同様に、『法律上禁止』されている旨と、法律を破ることは患者さんにも迷惑がかかる旨を伝えていくと良いでしょう。
まとめ
今回は、薬局薬剤師のリスクマネジメントの2回目、現場でよく起こる代表的な3つのクレーム事例を取り上げ、その具体的な対応方法について紹介してきました。
3つの事例は全てこちらに過失がない場合のクレームでした。
例えこちらに過失がない場合でも、相手に強い態度でクレームを言われるとついつい屈してしまいがちですが、
今回紹介した事例を参考に、時には法律上禁止されてることを引き合いに出して、相手に理解してもらうようにしていきましょう。
次回は、薬局薬剤師のリスクマネジメントの最終回、実践編(悪質クレームの対応)について紹介していきます。
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