前回に引き続き、今回は、『薬局薬剤師のための問題解決講座』のシリーズの2回目です。
問題解決は個人の能力・センスと思われがちですが、スキルの一種です。
今回は、問題解決のスキルとして、問題解決へ導いていくための効果的な考え方の手順について紹介していきます。
目次
前回の復習
薬剤師の問題解決講座を3回シリーズで実況中継形式で紹介しています。
前回は、『問題とはそもそも何なのか?』ということころから始まり、問題は目の前に起こっている現状ではなく、下図のような現状とあるべき状態とのギャップであることを紹介してきました。
そして問題解決は、到達可能なあるべき状態の設定と、そのギャップである本質的問題を見つけることから始めることを紹介してきました。
そこで今回は、簡単な事例をまじえて、実際にどのように問題解決してくかの手順を紹介していきます。
簡単な問題解決の事例
まずは私たちの薬局の店頭でよくある相談事例を取りあげて、具体的な問題解決の手順を紹介していきます。
例えば私たちの薬局に下図のような患者さんがきたら、あなたはどのように対応しますか?
ちょっとここで1分ほど考えてみて下さい。
実際に私たちの対応方法を当てはめてみると、大きく分類すると下図の4つのカテゴリーに分類されると思います。
対応方法としては、
相手の言葉に共感したり、解決の手段を提案したり、問題の原因を追究したり、問題の所在を探っていったりなど様々です。
ここに挙げた対応方法は全て正解ですが、本当に問題解決をしていこうとするならば、順番が非常に重要です。
ここであなたがどんな順番でどのような答え方をするかで問題解決の質が決まってきます。
では、まずは上図の4つの返答方法について詳しく解説していきます。
問題に対しての4つの返答
先ほど紹介してきましたが、何か目の前に困ったことが起こった時には、4つの返答が想定されることを紹介してきました。
これらの4つの返答は全て正しいのですが、この1つ1つをもう少し掘り下げて解説していきます。
共感(Empathy)
1つ目は共感です。
患者さんが困っているときに、そのことについて共感する態度を取ってくれる薬剤師の対応は患者さんにとって非常に嬉しいことです。
患者さんとの会話の中で『共感』の言葉を入れることによって、
「この薬剤師さんは話しやすい」
「信頼できる」
「安心感がある」
という感じで、共感の言葉を入れることは、患者さんとの信頼関係を構築していく上での重要なコミュニケーションスキルになってきます。
この内容に関しては、すでにこのWEBサイト内の記事で詳しく紹介しているので参考にしてみて下さい。
解決手段(How)
2つ目は、解決手段の提案です。
これは私たちの毎日の仕事の服薬指導でも行っていますね。
相手が健康問題で困っているので、その問題を解決すべく医療の専門家として患者さんに様々なアドバイス(服薬指導)を行なっています。
こういった解決手段の提案の際には、その提案(服薬指導)を行なったことが正しかったどうかの振り返りを行い、そして次の指導に繋げていくことが重要です。
そこで役に立つフレームワークとしてPDCAサイクル(下図)があります。
P(計画)から始まりA(改善)まで進むのを1サイクルとして、A(改善)まで進んだらP(計画)に戻り、何度もサイクルを回すことで継続的な改善を促すためのフレームワーク
もともとPDCAサイクルは、業務改善や品質向上などでよく使われるフレームワークですが、服薬指導をはじめ様々な仕事の場面で使えるので身につけておきましょう。
原因追及(Why)
3つ目は、原因の追求です。
原因の追求として『なぜそういうことが起こっているのか?』について、正しい答えが見つかれば、問題は解決したも同然です。
そんな時に参考になるフレームワークが『なぜなぜ分析』です。
問題の原因を特定するために『なぜ?』という質問を繰り返す手法。トヨタ自動車のカイゼン活動で生まれ、様々な業界で活用されています。
ちょっと具体例を出した方が分かりやすいと思います。
例えば、薬局スタッフの対応に対してクレームを頂いた事例に対してなぜなぜ分析を使ってみます。
なぜ患者さんがスタッフの対応に不満を持ったのか?
→応対が雑で冷たく感じたから
なぜ応対が雑で冷たく感じたのか?
→すごく忙しくて業務に余裕がなかったから
なぜ業務に余裕がなかったのか?
→いくつもの業務を同時に対応していたから
なぜいくつもの業務を同時に対応してしまったのか?
→業務の優先順位が薬局内で共有されていなかったから
なぜ業務の優先順位が薬局内で共有されていなかったのか?
→業務フローが決まってなく、教育訓練やシステム導入が不足していたから
このように、なぜなぜ分析では、問題が発生した場合に、一般的になぜを5回繰り返します。
その理由は、5回繰り返せば、ほとんどの問題の本質的な原因が突き止めることができ、再発防止にも効果的だからです。
このなぜなぜ分析を含めたトヨタの問題解決については、下図の書籍で詳しく解説しているので、ぜひ読んでみて下さい。
この本、本当におすすめです。
最後に1つだけ注意です。
なぜなぜ分析は、あくまで原因を追求するために行う思考のプロセスであって、薬局内で人に対しての質問で使うと、パワハラになってしまうので使い方を間違えないようにしましょう。
『なぜあなたはそうしたの?』『それはどうして?』『なぜ?』…
想像つきますよね?
かなり相手を追い詰めてしまうような質問になってしまいます。
気をつけましょう。
問題の所在(Where)
そして最後の4つ目は、問題の所在です。
『そもそもその問題はどこで起こっているのか?』
これを特定していくことが問題の所在の特定です。
問題の所在の特定は、なかなか難しく、何となく合っていそうだと思っても間違ってたりすることはしょっちゅうあります。
そんな問題の所在の特定に使用するフレームワークを1つ紹介します。
フィッシュボーンチャートと言って、直訳すると『魚の骨図』です。
フィッシュボーンチャートは、特性要因図とも呼ばれ、特定の問題や結果に対する原因を視覚的に整理するための図です。
図の形が魚の骨(フィッシュボーン)のように見えることからこの名前がついています。
例えば、『調剤の業務効率が悪い』という問題に対して、問題の所在を探っていくためにフィッシュボーンチャートを使用すると下図のようになります。
こんな感じで、フィッシュボーンチャートにその問題を引き起こす要因を、各カテゴリーごとに列挙していきます。
そして、漏れなくダブりなく列挙できたら、そこから初めて問題の所在の特定をしていきます。
現代経営学の父とも言われているピーター・ドラッカーは、著書の中で下記のように言っています。
間違った問題への正しい答えほど始末におえないものはない
『間違った問題』とは問題の所在の特定に失敗してしまったら、いくら正しい解決策を考え出しても成果に繋がらないということなんですね。
問題の所在の特定は、何となくではなく、ここで紹介したフィッシュボーンチャートなどを使って漏れなくダブりなく列挙してから行うようにしていきましょう。
問題解決を行う際によくする3つのミス
問題解決のための4つの返答を紹介してきました。
正しい問題解決の手順を紹介する前に、問題解決の際に起こしてしまいやすいミスについて3つ紹介します。
共感のみ
- 大丈夫ですか?
- おつらいですね
- 大変ですね
患者さんの問題に寄り添って、『共感』してあげること自体は非常に重要です。
ただ、『問題解決』という視点だと、共感だけでは問題解決になっていないので、共感のみの受け答えだけでは問題解決として不十分です。
共感の後に問題解決をしていくことが重要です。
解決手段のみ
- 病院で診てもらっては?
- しっかりと睡眠をとって下さいね
- 仕事を休んでは?
ここでは対策、どうやるかにばかり注意がいってしまって、いきなり解決手段を考えて行動してしまうケースですね。
問題に対して行動を起こしていること自体は素晴らしいのですが、その対策(解決手段)で問題の本質的な解決に繋がるかどうかは若干行き当たりばったりになってしまいます。
当たる場合もあれば、残念ながら外れる場合もありますね。
いきなりの解決手段の提案は控えたほうが良さそうです。
原因の決めつけ
- 疲れが溜まっているのでは?
- ストレスが原因?
- 夏バテかも?
問題が起こっている原因を分析すること自体は、本質的問題を特定していく上で非常に重要です。
ただいきなり原因を特定してアドバイスをしたとしても、本当にそれが原因かどうか、もしかして間違っているかもしれません。
特に、そもそも問題の論点がズレている場合は、いくら原因追及しても正しい成果には繋がっていきません。
いきなりの原因の決めつけは控えた方が良さそうです。
問題解決の流れ(手順)
ではここからは問題解決の正しい手順を紹介していきます。
結論から言うと、問題解決の正しい手順は、下図の通りです。
問題解決の4つの返答について解説してきましたが、問題解決はこの手順で考えていくのが最も効果的と立証されています。
その具体例を1つ出します。
『LQQTSFA』という医療面接における問診のフレームワークがあります。
あなたも聞いたことがあるかもしれません。
このフレームワークは、内科を含む医療面接で広く使われており、患者さんの症状の詳細を網羅的に把握するのに役立つとされています。
それぞれの頭文字が特定の質問を指していて、下記の通りです。
LQQTSFAとは
L (Location): 症状の場所はどこか?
Q (Quality): 症状はどのような感じか?
Q (Quantity): 症状の強さや程度はどれくらいか?
T (Timing): 症状がいつ始まったか、どのくらい続くか?
S (Setting): 症状が起こる状況や誘因
F (Factors): 増悪因子や緩和因子
A (Associated symptoms): 関連症状はあるか?
お医者さんはこの手順で患者さんに医療面接を行い、診断をしています。
これを見て頂いたらお気づきだと思いますが、
お医者さんの問診のフレームワークが、『問題の所在』から始まり、『原因の追求』に移っていき、最後に『解決手段(診断)』の順になっていることが分かります。
つまり、先ほど紹介した問題解決の手順に則って進められています。
個人的には、『LQQTSFA』の中に『共感(Empathy)』が入るともっと良くなると思うのですが…。
このように健康問題を抱えた患者さんの診断に至るプロセスにも、問題解決の手順が反映されていることがお分かり頂けたと思います。
この問題解決の手順は普遍的なスキルなので、あなたが問題解決をするときには、この手順で行なっていくようにしましょう。
まとめ
今回は、薬局薬剤師のための問題解決講座の2回目、問題解決の正しい手順について紹介してきました。
問題に対しての4つの返答をどのように行うか詳しく解説し、また、その正しい順番についても解説してきました。
問題解決はスキルです。
正しい手順で行なっていきましょう。
次回は、薬局薬剤師のための問題解決講座の最終回、薬局の現場で起こっている事例を3つほど紹介して、具体的にどのようにアプローチしていくかについて紹介していきます。
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