これで調剤過誤時の対応はひと通り完結です。
最後の仕上げとなる【STEP3】は、患者宅への訪問と謝罪です。
ここまでの流れを振り返ると、
- 【STEP1】ドクターへの報告と確認(前々回)
- 【STEP2】患者さん(またはご家族)への電話連絡(前回)
- 【STEP3】患者宅訪問と謝罪(今回)
ここまで来ると、薬剤師さんの中には、

電話で謝ったんだし、もう訪問は必要ないんじゃ…?

わざわざ顔を出すと、収まった怒りを蒸し返しそうで不安…
と思う方もいるかもしれません。
たしかに訪問は緊張しますし、相手の反応が読めない分、不安になる気持ちもわかります。
でも、だからこそ訪問が大事なんです。
なぜなら、患者さん側からすると、『顔を見てきちんと謝罪された』ことで、初めて気持ちが落ち着く場合があるからです。
逆に、電話だけで済ませると、

形だけの対応だったな…
結局、誠意が感じられない
と、不信感が残ることがあります。
訪問は単なる謝罪ではなく、薬局としての誠意をしっかり伝える場です。
患者さんと直接向き合うことで、信頼を回復するきっかけにもなります。
そこで今回は、訪問時の具体的な話し方やポイントを、現場でそのまま使える形で解説します。
もし、

うまく話せる自信がない…

どう謝ればいいかわからない…
と不安に思っているなら、ぜひ最後まで読んでみてください。
きっと『こうすればいいのか!』と腑に落ちるはずです。
目次
訪問謝罪の目的
過誤対応では、電話での謝罪で一旦落ち着いたように見えても、患者さんやご家族の気持ちは後からぶり返すことがあるんですよね。
特に、時間が経つと冷静になってからじわじわと不信感が湧いてくるケースも少なくありません。
最悪の場合、『やっぱり納得いかない』と訴訟に発展するリスクもあります。
だからこそ、電話だけで済ませずに、最後にしっかり訪問することが重要です。
訪問のゴール(目的)は、『謝ったからもういいでしょ?』ではなく、『わざわざ来てくれてありがとう』と言ってもらえること。
患者さんにそう思ってもらえれば、対応は成功です。
訪問は、ただの謝罪ではなく、薬局への信頼を回復するための最後の一押しだと捉えてください。
たとえ過誤が起きても、『この薬局なら安心できる』と思ってもらえるかどうかは、この訪問にかかっています。
では、まずは訪問日時を確認するための電話から始めましょう。
電話で訪問日時の確認
まずは、患者さんやご家族に電話をかけて、訪問の日時を確認します。
ただし、いきなり『お詫びに伺いたいのですが』と切り出すのはNGです。
まずは、相手の状況を気遣うひと言から入ることが大切です。
『その後のご様子はいかがでしょうか?』と相手を思いやる言葉を先に伝えることで、自然に会話を始められます。
電話での3つのポイント
①いきなり本題に入らない
電話をかけたら、まずは患者さんやご家族の様子を気遣う一言をかけましょう。

その後のご様子はいかがでしょうか?
と先に声をかけることで、相手も少し気持ちが和らぎます。
いきなり訪問の話を切り出すと、唐突で冷たい印象になりかねません。
②訪問は押しつけない

お詫びに伺わせていただきたいのですが…
とこちらの意向は伝えつつ、相手の都合を優先しましょう。
このとき、

お時間をいただけますでしょうか?
と丁寧に伺う姿勢が大事です。
訪問はあくまで『お願いする立場』であることを意識しましょう。
③相手のペースに合わせる
日時の調整では、相手にペースを合わせる配慮が欠かせません。
たとえば、

ご負担にならない日時でお伺いできればと思います
と伝えれば、押しつけがましさがなくなります。
急かさず、無理のないタイミングで調整することが大切です。
電話での会話例
それでは、実際に患者さん(またはご家族)へ電話連絡する際の具体例をご紹介します。

◯◯薬局の△△と申します。
先日はお電話でお話しさせていただきましたが、その後、お母さまのご様子はいかがでしょうか?

今のところ落ち着いていますが、入院になってしまって本当に困っています。

そうですよね…。
大変なご負担をおかけしてしまい、改めて心からお詫び申し上げます。
申し訳ございません。
ここで一呼吸おいてから、本題へ

恐れ入りますが、直接お詫びに伺いたいのですが、ご都合の良いお時間はございますでしょうか?

そうですね…◯日の午後なら大丈夫です。

ありがとうございます。
それでは◯日の△時頃にお伺いさせていただきます。
お忙しいところ恐れ入りますが、よろしくお願いいたします。
(通話終了)
電話でのポイントは、『訪問のお願い』ではなく、『お詫びを伝えたい』という姿勢で伝えること。
相手に『わざわざ来てくれるのか』と思ってもらえるように、誠意を言葉と態度でしっかり示すことが大切です。
患者さん宅への訪問謝罪
電話で訪問日時が決まったら、いよいよ患者さん宅へ伺います。
訪問はただ『謝るだけ』ではなく、薬局への信頼を取り戻すための大事な場面です。
ここでの対応次第で、患者さんの気持ちは大きく変わります。
では、訪問時に気をつけたい3つの注意事項と、実際の会話事例をご紹介します。
訪問時の3つの注意事項
①清潔感のある服装
患者さんは、薬局のスタッフを『医療のプロ』として見ています。
そのため、普段より少しきちんとした服装を意識しましょう。
- 男性→スーツやジャケット着用
- 女性→落ち着いた色合いのシンプルな服装
状況によっては白衣でも良いかもしれません。
②必要な持ち物
訪問時には、状況に応じてスムーズに対応できるよう準備を整えておきます。
- 必要書類→報告書や説明書類など
- メモ帳→患者さんの話をメモすることで、真摯に受け止めている姿勢が伝わります
- 謝罪の品→必須ではありませんが、患者さんへの気遣いとして持参する場合は慎重に選びましょう
謝罪の品で菓子折りを持参することが多いかもしれませんが、患者さんは体調を崩している状態です。
そのため、お菓子を渡すのはかえって失礼にあたる場合があります。
代わりに、タオルやお茶や商品券など、どなたでも使える品物を選ぶと安心です。
③訪問時の振る舞い
玄関先での第一印象はとても大事です。
入室時には、以下の流れを意識しましょう。
- お辞儀は深めに→相手に敬意と謝罪の気持ちが伝わります
- ゆっくり落ち着いた話し方で→焦らず、穏やかな声で話すことで誠意が伝わります
訪問時の会話例
謝罪時は、何よりも相手の気持ちに寄り添って、誠実に対応することが大切です。
以下の流れで、訪問時の会話例を見ていきましょう。
入室時

◯◯薬局の△△です。本日はお時間をいただき、ありがとうございます。
ここで深くお辞儀をします。
腰を折った最敬礼で誠意を示すようにします。
謝罪

改めまして、このたびは私どもの調剤ミスにより、大変ご迷惑をおかけしました。
心からお詫び申し上げます。

母が入院することになったんですよ。
どう責任を取ってくれるんですか?

本当に申し訳ございません。
今回の件について、医師からは『心不全の進行が主因と考えられるが、フロセミドの減量も一因になった可能性がある』との診断を受けました。
私たちの確認不足が影響を与えたこと、深く反省しております。
再発防止策の説明

今回の件を真摯に受け止め、二度とこのようなことが起こらないよう、薬局内のチェック体制を強化します。
具体的には、調剤時のダブルチェックを徹底し、服薬指導の際には再確認を強化して、スタッフ全員で取り組んでまいります。
患者・家族の気持ちに寄り添う

でも、結局母は入院したんです。どうしてくれるんですか?

ご心配されるお気持ち、もっともかと思います。
私たちとしても、ご迷惑をおかけしたことを重く受け止めております。
今後も医師と連携して、経過をしっかり確認していきますので、ご不安なことがあればすぐにご連絡ください。
訪問の締めくくり

本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
お母さまの回復を心より願っております。
また、今後何かご不安な点があれば、遠慮なくご連絡ください。
最後にもう一度深くお辞儀をして退出します。
訪問謝罪時の5つのポイント
ここまでの会話事例で、なんとなく流れはつかめたでしょうか?
『なるほど、こう話せばいいのか』と少しイメージが湧いた方もいるかもしれませんね。
でも、実際に患者さん宅で謝罪するとなると、緊張で頭が真っ白になったり、うまく言葉が出てこなかったりするものです。
だからこそ、押さえておくべきポイントを事前に整理しておくことが大切です。
ここからは、訪問時に意識したい5つの具体的なコツを、現場でそのまま使える形で解説していきますね。
①冷静さを保つ
まず、最も大切なのは感情的にならないことです。
患者さんやご家族が怒ったり、強い感情をぶつけてきたりする場面もあるかもしれませんが、そこで感情的に反論してしまうと、事態がさらにこじれる可能性があります。

おっしゃる通りです。
ごもっともです。
といった言葉で、まずは相手の気持ちをしっかり受け止めることが大事です。
冷静さを保って、相手の怒りや不安に寄り添う態度を見せましょう。
②言葉選びに気をつける
謝罪の際に

調剤ミスで入院しました。
と断定するのは避けましょう。
なぜなら、実際の原因は医師の診断によるものだからです。

医師の診断では、心不全の進行が主な原因だと言われていますが、フロセミドの減量も影響を与えた可能性がある。
といった具合に、あくまで医師の見解を伝えることが大切です。
自分が責任を持って断定しすぎると、後々問題が生じることもあるので注意が必要です。
③金銭的補償の話には即答しない
万が一、補償に関する話が出たときには、その場で即答するのはNGです。

その点については薬局内で確認し、改めてお返事させていただきます。
と、一旦受け止めたうえで時間をもらうのが基本です。
勝手に判断してしまうと後でトラブルになりかねませんので、冷静に対応することが重要です。
④謝罪の目的をしっかりと認識する
訪問の目的は、誠意を示して患者さんやご家族の気持ちを落ち着かせることです。
電話だけで済ませるのではなく、直接訪問することで信頼回復を目指します。

対応してくれてありがとう。
と言ってもらえた時が、謝罪のゴールと言えるでしょう。
そのためには感情的にならず、冷静に謝罪し、再発防止策をしっかり伝えることが必要です。
⑤謝罪の品選びに配慮する
謝罪の品として、菓子折りを持って行くことが多いかもしれませんが、必ずしもそれが最適とは限りません。
相手が気を使わずに受け取りやすい品を選ぶことが大事です。
例えば、糖尿病の患者さんには甘いお菓子は避けた方が良いですよね。
その方の年齢や好みを考慮し、相手が本当に喜んでくれるものを選ぶよう心がけましょう。
このように、謝罪訪問の際には冷静で誠実な対応が求められます。
相手の立場に立って、最善の方法で信頼を回復していきましょう。
調剤過誤を防ぐための対策
調剤過誤はゼロにできなくても、日々の工夫や事前準備で頻度は確実に減らせます。
例えば、ダブルチェックの徹底や薬情のフォントサイズを見直すだけでも、見落としのリスクはグッと下がります。
それと意外と見落としがちですが、日本薬剤師会が無料で配布している『調剤過誤防止テキスト』は実用的な資料です。

『新任薬剤師のための』とありますが、ベテランでも気づきがある内容で、『あれ?ウチでは意外とできていないな』と感じるポイントがきっとあると思います。
日々の業務を見直しながら、できることから対策を強化していきましょう。
まとめ
これまで3回にわたって調剤過誤の初動対応についてお伝えしてきました。
調剤過誤対応はクレーム対応と同じく最初の対応が最も重要です。
このシリーズで紹介した手順を参考にしながら、状況に応じた柔軟な対応を心がけてください。
基本の流れは、
ドクターへの報告と確認
患者さん(またはご家族)への電話連絡
患者宅訪問と謝罪
といった対応が基本であることをお伝えしてきました。
でも現場ではなかなか想定どおりにいかないことも多いですよね。
そんなときに大事なのは、『相手の立場になりきること』です。
ただ『相手の気持ちを考える』のではなく、『自分が患者さんだったらどう感じるか?』『何をしてほしいか?』を具体的に想像し、先回りして言葉や行動で示すことが相手の気持ちを落ち着かせるカギになります。
それでも難しいと感じたら一人で抱え込まず、周りと連携することも大切です。
調剤過誤対応は決して簡単ではありませんが、誠意を持った対応は信頼回復につながります。
患者さんが『ちゃんと向き合ってくれた』と感じられるよう、丁寧に対応していきましょう。