
急な対応が重なると、何から手をつけるべきか迷う…
こんな経験、ありませんか?
日々の業務に追われていると、『考えているより、自分でやったほうが早い!』とつい手を動かしてしまうこと、ありますよね。
でも、それが続くと、気づかないうちに仕事がどんどん積み重なり、余裕がなくなってしまうことも…。
実は、こういう場面こそ管理薬剤師としての腕の見せどころなんです。
前回の記事では、管理薬剤師に求められる役割やスキルについてお話ししました。
でも、『知っている』と『実際にできる』は別の話ですよね。
現場で働いていると、『頭では分かってるんだけど、いざやるとなると難しいな』と感じることも多いはず。
そこで今回は、管理薬剤師としての業務をスムーズに進めるための実践的なトレーニング方法を紹介します。
例えば、実際の業務で起こりがちな場面をケーススタディで考えたり、短時間で判断するシミュレーションを行ったりすることで、現場での判断力や対応力を鍛えることができます。
全3回に分けて、よくある問題への具体的な対処法を解説していきます。
まず今回は、管理薬剤師向けのトレーニングとしてよく使われる『インバスケット演習』について、その概要を紹介します。
インバスケット演習とは
『インバスケット演習』って聞き慣れないかもしれませんが、簡単に言うと実務の判断力や対応力を鍛えるトレーニングです。
たとえば、

この業務とあの業務、どっちを優先すべき?

部下にどう指示を出せばスムーズに進む?

急なトラブル、何を優先する?
こういう、現場で『うーん…どうしよう?』と迷う場面をシミュレーションしながら、限られた時間でベストな判断をする練習をしていきます。
頭では分かっていても、いざやると迷ったり、後から『あの判断でよかったのか?』と思うこと、ありますよね。
インバスケット演習は、その『分かってるけどうまくできない』を埋めるための実践的なトレーニングです。
さらに、管理薬剤師として 業務の優先順位をつけたり、スタッフとうまく連携したりする力を磨くのにも役立ちます。
単なる座学ではなく、『この状況ならどう動く?』と具体的なケースに向き合いながら、実務に直結するスキルを身につけられるのがポイントです。
なぜインバスケット演習が重要なのか?

インバスケット演習って、管理薬剤師にとって本当に役立つの?
と思うかもしれませんが、実はこれ、現場でのマネジメント力を鍛えるのにすごく効果的なんです。
インバスケット演習では、実際に以下の3つのスキルを身につけることができます。
- 問題解決(目の前の課題をどう解決するかを考える力)
- 課題設定(本当に重要な問題を見極める力)
- メンバーとの協働(チームでスムーズに仕事を進める力)
もちろん、この演習をうまく活用するには、前回の記事内で紹介した管理薬剤師に必要な『3つのスキル』を使いこなすことが大事です。
前回の話は理論的な部分が多かったので、今回は実際の現場でどう活かすかに重点を置いたトレーニングになります。
単に知識を覚えるだけじゃなくて、実務にどう活かせるかを意識して進めていきましょう。
インバスケット演習内容と具体的な事例
インバスケット演習って、薬局の管理薬剤師として必要な思考力やマネジメント力をチェックするために使われることが多いです。
でも、それだけじゃなくて、実際の業務に役立つケーススタディにもなっています。
じゃあ、具体的にどんなことをするのかを少し紹介しますね。
これから、実際の事例も紹介するので、『インバスケット演習ってこんな感じなんだな』とイメージしやすくなればと思います。
案件対応演習
現場で管理薬剤師をしていると、次々にいろんな問題が降りかかってきますよね。
例えば、上司からの依頼、スタッフの相談、クレーム対応、ドクターとのやり取り、シフト調整…など、やらなければならないことは本当に多いです。
これらが同時に押し寄せてくるので、気がつけばやることが山積みになっています。
実際、これらの仕事をどう処理していくかが大事なんですが、ここで大切なのは『ただ処理する』だけではなく、実は『問題解決』が求められているということです。
つまり、ただやるべきことをこなすのではなく、どんな手段を使って問題を解決していくかを考えなければいけないんです。
これが『案件対応』です。
イメージとしては、いくつかの問題がまだ解決されていない状態で、限られた時間内にそれぞれの特性や要素を把握し、全体を俯瞰して優先順位をつけて対応すること。
メモや指示を頼りに、関係者と連携して、自分の判断で問題を解決していく感じですね。

この『インバスケット演習』では、現場で必要な業務上の判断力や問題解決力を実際に体験しながら鍛えることができるんです。
課題設定演習
インバスケット演習では、先に紹介した『案件対応』を行うだけでなく、もう一つ大切な演習もあります。
そのポイントは、問題を解決することだけじゃなく、その問題の本質に気づく力を養うことです。
例えば、『この案件の背後にはどんな組織的な課題があるんだろう?』という視点を持ち、問題の根本的な部分に気づく訓練をします。
この演習のイメージを、先ほどの案件対応演習と一緒に図にまとめたものがこちらです。

さらに、目の前の問題を解決するだけではなく、組織全体を俯瞰して『これからどう進んでいくべきか?』という方向性を考える戦略的な意思決定も求められます。
このインバスケット演習を通じて、現場での判断力や組織全体を見通す力を養うことができるんです。
簡単な事例でインバスケット演習
じゃあ、ちょっと具体的な練習をしてみましょう。
例えば、こんな場面(家にゴキブリが出た)を想像してみてください。

家にゴキブリが出てきたとき、あなたならどうしますか?
この状況をどう対応するか考えてみてください。
インバスケット演習では、次の2つの視点で考えることが大事です。
- 案件の処理…目の前の問題をどうやって解決するか?
- 課題設定…そもそも、この問題が起こらないようにするにはどうするか?
この2つの視点を意識しながら、実際にどう動くか考えてみましょう。
では、一緒に考えていきますね。
案件の処理(目の前の問題を解決)
目の前の問題を解決していきます。
今すぐにできる対応として、次のような方法があります。
- 殺虫スプレーを使って駆除する
- 新聞紙やスリッパで叩いて駆除する
- 捕獲器(粘着トラップ)を設置する
- 瞬間冷却スプレーを使用する
- 掃除機で吸い取る
- 侵入経路を特定し、目張りや隙間を塞ぐ
- 退治したゴキブリを袋に密閉し、すぐに捨てる
- 消毒や掃除をして衛生環境を整える
- 家族や同居人に状況を共有する
- 業者に駆除を依頼する
課題の設定
一方、問題の本質を見抜き、根本的な解決を考えていきましょう。
そもそも なぜゴキブリが出たのか? を考え、再発を防ぐための対策を講じることが重要です。
- ゴキブリが発生する原因を分析する(食べかす・湿気・暗所など)
- 家の清掃を徹底し、食べ物の残りやゴミを放置しないようにする
- シンクや排水口をこまめに掃除し、水分を残さないようにする
- エアコンや換気扇のフィルターを清掃し、侵入経路を減らす
- 家具の隙間や壁の穴を塞ぎ、物理的な侵入を防ぐ
- ゴキブリ用の毒餌(ベイト剤)を設置し、繁殖を防ぐ
- 市販の防虫剤を活用し、定期的に予防策を講じる
- 植木やベランダ周辺の環境を整え、発生源を減らす
- ペットフードや食材の管理を徹底し、ゴキブリの餌にならないようにする
- 近隣住民と協力して、マンション・アパート全体で対策を講じる
ゴキブリを見つけたら、まずは退治するのが最優先ですよね(これが『案件の処理』)。
でも、それだけだとまたすぐにゴキブリが出てきてしまう可能性が高いですね。
だからこそ、『そもそもどうしてゴキブリが出たのか?』を考えて、その原因に対して根本的な対策を考えることが大切になります。
これって、薬局のマネジメントでも同じなんです。
例えば、調剤過誤が起きたとき、ミスをしたスタッフを注意するだけでは、問題は解決しませんよね。
『どうしてミスが起きたのか?』『同じことを繰り返さないためにどう改善すればいいか?』という視点を持つことで、問題の本当の原因が見えてきます。
今回は簡単な例を出しましたが、次回は薬局で実際に起こる、もう少し具体的な事例を紹介します。
まとめ
今回は、管理薬剤師に必要なスキルを実践的に鍛える方法として『インバスケット演習』を紹介しました。
薬局の現場では、優先順位をつけたり、いくつかの仕事を同時にこなしたりするのが当たり前ですよね。
そんな中で、しっかりとした判断ができるようになるには、実践的なトレーニングが必要不可欠です。
インバスケット演習をやると、目の前の問題を処理するだけでなく、『本当に解決すべき課題は何か?』を見抜く力がつきます。
このスキルが身につくと、業務の進め方がぐっとスムーズになります。
今日はシンプルな例でしたが、次回は薬局で実際に起こるケースを元に、さらに実践的なトレーニングをしていきます。
現場のリアルな事例を通して、管理薬剤師としてのマネジメント力をもっと磨いていきましょう。
指示するより、自分でやったほうが早いって思っちゃう…