患者さんへの服薬指導でもっと喜んでもらいたい…
こんな感じで患者さんへの服薬指導で、なんとなく手応えが足りないと感じている人は意外と多いのではないでしょうか。
そこで今回は、薬局カウンターで活用できる『患者さんの元気と健康を作り出すコミュニケーション』のコツをお伝えします。
薬剤師として、薬学教育でしっかり学んだ知識や技能はもちろん大事。
でも、それだけでは患者さんの心に響く指導にはなかなかなりにくいですよね。
そこで今回は、元気づくり・健康づくりをテーマにした具体的なコミュニケーション方法を紹介していきます。
これを通じて、地域で一番身近で信頼される医療従事者として、患者さんの健康づくりに積極的に貢献する薬局薬剤師になるための第一歩を踏み出しましょう。
このシリーズでは全4回にわたって、すぐに実践できるテクニックをわかりやすく解説していきますので、ぜひ最後まで読んでみて下さい。
目次
服薬指導、本当にそれでいい?
ちょっと考えてみてください。
『地域の人々に健康になってほしい』
これって、私たち薬剤師みんなの共通の願いですよね。
でも、健康を維持するために一番大事なものって、何だと思いますか?
もし、次の10個の中から5つを選んで優先順位をつけるとしたら、あなたならどれを選びますか?
・どれを選びましたか?
・そして、その中で『薬』は何位に入りましたか?
確かに、薬は健康を支える大切な要素の一つです。
でも、もしかしたら、優先順位が一番高いわけじゃないと感じた人も多いのではないでしょうか。
薬は薬物療法を通じて健康を維持するためには必要不可欠です。
ですが、健康って実は薬だけで成り立つわけではないんですよね。
ここで改めて『健康』というものを振り返ってみましょう。
健康の定義、ちゃんと理解してる?
あなたも既にご存知の通り、WHO(世界保健機関)では健康を下記のように定義しています。
健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱 の存在しないことではない。…
どうでしょう、この定義を読んでみて気づくことはありませんか?
健康って、単に『病気がない状態』じゃないんですよね。
『体調が良いこと』だけじゃなく、心も元気で、社会的にも調和が取れている状態が揃って、初めて『健康』と言えるんです。
服薬指導、薬の話だけで終わってない?
ここで、私たちの普段の服薬指導を思い返してみましょう。
薬の説明に時間をかけて、それで終わりになっていませんか?
ここで少し図を改良してみました。赤丸と青丸を追加しています。
赤丸の部分は、『病気を減らす』ための健康づくりを表しています。
一方、青丸の部分は、『元気を作り出す』ための健康づくりを示しています。
どちらが大事かと問われたら、多くの人が『どちらも大事』と答えるでしょう。
患者さんの健康づくりをサポートするうえで、あなたは『病気を減らす視点』と『元気を作り出す視点』のどちらを重視していますか?
患者さんに寄り添う視点を忘れていませんか?
患者さんの視点で考えるってどういうこと?
例えば、洋服を買いに行ったときの店員さんの対応を思い出してみてください。
『何かお探しですか?』『これ新作です』と声をかけられたとき、ちょっと『今は自分で見ていたいな』と感じたこと、ありませんか?
これって、店員さんが自分の売りたいものを一方的に押し付けてきたからですよね。
実は、私たち薬剤師も同じようなことをしていないでしょうか?
『薬の説明を丁寧にすること』が薬剤師の仕事だと信じ込んでいませんか?
でも、実際それだけだと患者さんのことをしっかり見ていないのと同じなんです。
本当に患者さんに寄り添うなら、薬の話だけでなく、患者さんの良いところを見つけたり、ちょっとした気づきを話題にしてみることが大事です。
それが、患者さんに『この人、本気で私の話を聞いてくれている』と感じてもらえる、信頼されるコミュニケーションにつながっていきます。
会話のゴール、薬だけで終わらないように
患者さんとの会話、最初は薬や病気の話から始まることが多いですよね。
でも、話がそれだけで終わってしまっていませんか?
医療従事者としての知識だけでなく、ひとりの人間としての視点も大切にしてみましょう。
一度、自分の日々の服薬指導を振り返ってみてください。
患者さんに本当に元気と健康を届けるために、私たちにできることはもっとあるはずです。
私達の普段の服薬指導はどうすべき?
普段の服薬指導をちょっと振り返ってみましょう。
下の図を見てください。
左側に行けば行くほど『健康』、右側に行けば行くほど『死』に近づく…そんなイメージの図です。
様々な医療提供の重要性と役割
ここで、ひとつ質問です。
赤で囲んだエリアでの医療と、青で囲んだエリアでの医療って、同じだと思いますか?
もちろん、違いますよね。
赤いエリア、つまり『死』に近い部分での医療は、検査データや薬、外科的治療が中心になります。
病気を減らすことが目的で、専門医がしっかり対応しなければならない場面が多いです。
でも、左側、つまり健康に近い部分では話が変わります。
ここでは、病気を減らすだけじゃなくて、もっと幅広く考える必要があるんです。
薬だけにとどまらず、患者さんをトータルで見ながら、柔軟に健康を提案していくことが求められます。
つまり、赤いエリアでも青いエリアでも『医療提供』という点では共通していますが、その内容が大きく異なるんです。
国民が期待している医療提供とは?
さて、みなさん、今国民が一番関心を持っている医療って、どっちだと思いますか?
実は、ほとんどの人が青いエリア、つまり『健康を維持するための医療』に興味を持っているんです。
薬局やドラッグストアでの健康提案も、まさにこの青いエリアに関わるものなんですね。
今の医療って、例えるなら『修理業』みたいなものです。
体に異常があれば健康診断で発見して、問題があれば治療する。この流れが基本ですよね。
でも、実際に国民が求めているのは、そこだけじゃないんです。
みんなが気になっているのは、次のことです。
・どうすれば病気にならずに済むか?」
・少しの病気があっても、どうしたら快適に過ごせるのか?」
要するに、体の『メンテナンス』に目が向いているんです。
最近では、ただ病気を治すだけでなく、『健康を維持して、さらに健康になりたい』というポジティブヘルスの考え方が注目されています。
実際に現場で働いていると、メンテナンスを求める患者さんが本当に増えているのを感じますよね。
これも超高齢社会の影響が大きいからだと思います。
『じゃあ、これって医者がやればいいんじゃない?』と思うかもしれませんが、実はそれが難しいんです。
お医者さんには時間がありません。
お医者さんの仕事は病気の診断と薬の処方が中心で、あれこれ細かいアドバイスに時間をかけている余裕がないんですよ。
そして、これって高齢者だけの問題ではないんです。
今の若い世代だって、70歳くらいまで働き続けなきゃいけない時代です。
『いかに健康で長生きするか』
これは年齢に関係なく、日本人みんなに共通するテーマですよね。
だからこそ、健康維持に一番貢献できる医療従事者は、やっぱり薬剤師なんですよね。
これからの薬剤師のコミュニケーションスタイル
こういう話を聞いたとき、あなたはどう感じますか?
『なるほど、患者さんの気持ちをしっかり理解するためにアンテナを立てることが大事だな。医療従事者としてのやりがいも増えるし、これからもっと意識してやってみよう!』と思う人もいれば、
『でも、実際、次々に患者さんが来るし、時間もないから、そんなこと考えてる余裕なんてないよな…』と、ついできない理由を考えてしまう人もいるかもしれません。
あなたは、どちらのタイプですか?
『自分はどんな生き方・働き方・対応をしているんだろう?』って、ちょっと立ち止まって考えてみるのも大事です。
指摘されて『なるほど』と思う人もいれば、『それってちょっと難しいかも?』と感じる人もいるでしょう。
でも、そんな違和感も含めて自己分析してみることが大切なんです。
今後の薬剤師に求められる力って?
これから薬剤師にとって必要なのは、もちろん薬の知識や薬効のメカニズムも大切です。
でも、それだけじゃ足りないんですよね。
実際、現場に出てみると、もっと大事なのは、下図のような、コミュニケーション力や、話しやすい雰囲気を作れる人、チームをまとめる力がある人、職場のムードを良くできる人なんですよね。
こういった力を持っていると、患者さんにも、そして一緒に働くスタッフにも安心感を与えることができるんです。
逆に、どんなに知識が豊富でも、職場の雰囲気がギスギスしていると、それは患者さんにも伝わっちゃいます。
『なんだか、ここの薬局はバラバラだな…』って感じさせてしまうんですね。
自分の得意・不得意を見つめ直そう!
完璧な人なんていませんよね。
私たちにはみんな、得意なことと、ちょっと苦手なことがあるものです。
だからこそ、自分の「得意なこと」と「不得意なこと」をしっかり見つめ直してみましょう。
例えば、
『自分はチームをまとめるのが得意か?』
『周りと良い関係を築くのが得意か?』
『話しやすい雰囲気を出せているか?』
こんな視点で自分を振り返ってみると、きっと新しい発見があるはずです。
そして自分の『得意なこと』をさらに伸ばして、『不得意なこと』を補うことで、服薬指導のやり方が大きく変わってくるかもしれませんよ。
まとめ
今回は、薬局薬剤師が患者さんの元気と健康をサポートする会話術シリーズの第1回目をお届けしました。
服薬指導におけるコミュニケーションの重要性は、単なる薬の知識の提供にとどまらず、患者さんの心に響くアプローチが求められます。
患者さんの健康を支えるためには、薬剤師としての専門性だけでなく、思いやりや共感を持って接することが大切です。
このシリーズを通じて、患者さんとの信頼関係を築き、より効果的な服薬指導ができる薬剤師を目指していきましょう。
患者さんへの服薬指導がいつも単調になりがち…