薬剤師の職能拡大シリーズの第1回目。
今回は『健康フェア』をテーマにお届けします。
前回のコラムでは、アメリカの薬剤師がなぜ最も信頼される職業No.1として長年評価されているのか、その理由を視察研修を通じて解説しました。
そして、それをヒントに日本の薬剤師がどんな取り組みをしているのかもご紹介してきました。
今回はその中でも特に注目したい『健康フェア』について深掘りします。
健康フェアでは、薬剤師が『地域住民にとって最も身近で信頼できる医療提供者』としてどんな役割を果たしているのか、その具体例を分かりやすくお伝えします。
きっとあなたのキャリアや、今後の薬剤師の取り組みに役立つ内容になっていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
健康フェアの目的
いきなりですが、『健康寿命』って言葉、聞いたことありますか?
これは、介護を必要とせず、自立して生活できる期間のことなんです。
厚生労働省が3年ごとに発表しているデータから算出されているんですが、女性の方が長いのですが、平均すると平均寿命と健康寿命の間に約10年もの差があるんですよね。
この事実、けっこうショックじゃないですか?
特に若い世代だとピンと来ないかもしれませんが、人生の最後の10年を病気で苦しみながら、誰かの世話になって生きる介護期間があるという現実があるんです。
日本は世界でもトップクラスの長寿国ですが、その中身は『病気長寿』『寝たきり長寿』とも呼ばれる状況で、これは近年深刻な問題になっています。
では具体的にどんな病気になって介護状態になっているかというと、ここに厚生労働省のデータがあります。
このデータを見てみると、脳血管疾患(脳卒中)や骨折・転倒、そして認知症といった病気が多いことに気づきますよね。
その中でも特に、脳血管疾患(脳卒中)や骨折・転倒は、生活習慣、特に食事や生活習慣の影響が大きいと言われています。
こうした病気を予防して、地域の皆さんの健康寿命を延ばすために行われているのが、薬剤師が中心となって実施している健康フェアなんです。
健康フェアはただのイベントではありません。
地域の方々が健康を守り、寝たきりにならない未来を作るための薬剤師による積極的な医療提供なんです。
この後、具体的にどんなことが行われているのか、詳しく紹介していきます。
健康フェアで使用する機器
健康フェアで使用している機器は主に下記の3つです。
こういった機器を使って地域住民が自分で測定し、薬剤師は地域住民の健康寿命延伸のためのアドバイスを行っています。
健康フェアの実施風景
健康フェアを行っている現場の雰囲気を当時の写真でお伝えします。
ちょっと古い写真ですがこんな感じです。
健康フェアを実施してみると、地域住民から予想以上に多くの反響がありました。
その中でも特に印象的な声をいくつかご紹介します。
- 「こんなことをしてくれるなんて本当に助かります!」
- 「自分の健康状態を詳しく知ることができました」
- 「薬剤師さんから具体的なアドバイスをもらえて助かりました」
- 「こんなイベント、もっと頻繁にやってほしい!」
- 「日常生活を見直すきっかけになりました」
健康フェアを通じて、薬剤師の役割が大きく変わりつつあることを実感しました。
これまでの『薬を渡す』対物業務から、『健康を支える』対人業務への移行を目指す中で、健康フェアはその象徴的な取り組みとなっています。
医師が『病気を治すプロ』とするなら、薬剤師は『健康を守るプロ』、つまり健康寿命を伸ばす医療提供者として地域に貢献できる存在になれるような気がします。
健康フェアを通じて、その可能性と手応えを改めて感じることができました。
健康フェアは、地域住民の健康意識を高めるだけでなく、薬剤師自身にとってもやりがいを感じられる素晴らしい取り組みになっています。
健康フェアでの指導内容
では健康フェアで、薬剤師が具体的にどのような指導をしているか、簡単に紹介していきます。
平成17年7月26日に各都道府県知事宛に厚生労働省医政局長通知で医行為でないものが例示されました。
健康フェアではこの通知を遵守し、以下のような注意点を社内で共有してから実施するようにしました。
- 薬事法を遵守する。
- 医業を行わない(医師法17条)。
『医業』とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うこと - 病名の断定はしない(骨粗鬆症です、高血圧です、など)
- 『測定』という言葉は使わず『チェック』という言葉で代用する。
- 健康食品に対して『効きます』など効能・効果を断言しない。
では3つの測定機器による薬剤師の指導内容を紹介していきます。
血圧計
多くの薬局でも設置されている全自動血圧計ですね。
ここでは、まずは血圧計の正しい測り方を指導しています。
血圧は測り方を間違えると正しい値を得ることができません。
まずは正しい血圧計の測り方を指導し、家庭で血圧測定を促し、ご自身の血圧の値を把握していくように指導します。
そしてその後に、塩の量だけでなく、塩の種類についてのアドバイスや、血管を柔軟にする油の話などを行います。
体成分分析器
次に体成分分析器です。
この機械の特長は内臓脂肪面積を1㎠単位で測定できる点です。
内臓脂肪は、様々な生活習慣病の原因となり、それが寝たきり原因の脳血管疾患に繋がっていくので、この辺りを地域住民の方が確認できるようにしています。
他にも下図のような測定項目があるので、結果に応じた説明・アドバイスを行っています。
骨密度測定器
そして最後は骨密度測定器です。
この機器では足の踵に超音波を流して測定します。
超音波なので妊婦でもペースメーカーをしている方でも、どなたでも測定可能です。
数値が高いほど丈夫な骨で、下図のような説明シートを使いながら指導しています。
寝たきりの主要原因である骨折・転倒を予防していく支援を行い、地域住民の健康寿命延伸に貢献しています。
3つの測定機器について簡単に説明しましたが、実はその知識をさらに深めるため、社内では約8時間以上にわたる栄養指導の研修も行っていました。
さらに、その研修内容は大学の講義にも活用して、より実践的な内容にブラッシュアップしています。
このような取り組みについては、また別の機会に詳しく紹介していきたいと思っていますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
まとめ
薬剤師の職能拡大シリーズ第1回目、今回は薬剤師による『健康フェア』についてお話しました。
健康フェアの大きな目的は、地域住民の健康寿命を延ばすこと。
寝たきりや病気を予防するために、薬局の待合室を活用し、3つの機器で測定を行い、その後のアドバイスをしています。
薬剤師の仕事は、今や『対物業務』から『対人業務』へと進化しています。
これにより、薬剤師は単なる薬の提供者ではなく、健康をサポートするプロフェッショナルへと成長していけるような気がします。
医師が病気治療のプロならば、薬剤師は健康管理のプロとして、地域住民にとって最も身近で信頼される医療提供者を目指せるのではないでしょうか。
薬剤師として、医師と競合するのではなく、地域住民にとっての身近さを武器として、医療の中で確かな役割を果たしていくことが重要だと思います。
これが、今後の日本における薬剤師の職能拡大につながると確信しています。
次回は、薬剤師の職能拡大の2回目、『薬剤師の職能拡大②|心理カウンセリングで患者さんと信頼関係構築』について紹介します。
高血圧は脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)の主要なリスク要因です。
血圧を定期的に測定し、早期に異常を発見することで、脳血管疾患の発症リスクを大幅に低減できます。
体成分分析器では内臓脂肪を1㎠単位で測定可能です。
内臓脂肪が蓄積すると、メタボリックシンドロームや2型糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を引き起こすリスクが高まります。
内臓脂肪を定期的に測定することで、早い段階から生活習慣の改善を促し、これらの病気を未然に防ぐことができます。
骨密度の低下(骨粗鬆症)は、骨折や転倒のリスクを高めます。
特に高齢者の骨折は寝たきりや要介護状態につながりやすく、健康寿命を短くする一因です。
骨密度測定により、骨の状態を把握し、適切な治療や栄養改善を行うことでリスクを軽減できます。