海外の薬剤師シリーズ、第2回目!
今回のテーマは、アメリカと日本の薬剤師教育の違いについて紹介します。
アメリカでは薬剤師が国民から信頼される職業として長年トップに立ってきた背景には、どんな教育があるのか?
そんな疑問に答えるため、実際にシアトルでの研修体験と、ワシントン州立大学の教授のインタビューを通じて、アメリカの薬剤師教育のリアルに迫ります。
前回の第1回目で紹介したように、アメリカの薬剤師は2001年以前、20年間も『国民から最も信頼される職業』として評価されてきました。
日本の薬剤師も同じように信頼されるためには何が必要なのか?
この記事を読んで頂ければ、アメリカの薬剤師がなぜ国民から高い信頼を得ているのか、その秘密が見えてきます。
目次
シアトルでのアメリカ研修
2007年、私はAJD(オールジャパンドラッグ)主催のアメリカ研修に参加して、シアトルへ行ってきました。
この研修のプログラムの概要は下記のとおり。
- 薬局、ドラッグストア店舗視察
- ワシントン州立大学病院視察
- ワシントン州立大学での体験入学
スターバックス1号店などのvっf観光も少し楽しみましたが、特に印象に残ったのはワシントン州立大学での体験入学でした。
ここでの体験が、その後の私の薬剤師教育への考え方を大きく変えるきっかけになりました。
ここからは、ワシントン州立大学での体験入学で得た貴重な経験についてご紹介します。
ワシントン州立大学への体験入学
AJD主催のアメリカ研修では、『日本の薬局薬剤師が10年後、どんな役割を果たすべきかを考える』というテーマが掲げられていました。
研修の目玉は、ワシントン州立大学での体験入学。
ワシントン州立大学での体験入学では、アメリカの薬剤師がどうやって地域住民から最も信頼される職業としての地位を築いてきたのか、その背景を学ぶことができ、とても勉強になりました。
また、現地で大学の教授や州の薬剤師会会長とも交流があり、彼らがアメリカでの医療費の高騰や医療アクセスの改善に対応するために、薬剤師の職能をどのように拡大してきたかをリアルに感じることができました。
その内容を簡単に紹介します。
アメリカの薬剤師の職能拡大の背景
アメリカでは長年、医療費の問題が深刻で、医療費を抑えながら、誰でも医療を受けられるような仕組みづくりが大きな課題とされてきました。
そこで、薬剤師が下記のような職能を持つようになり、地域医療に大きく貢献してきました。
- 予防接種の実施
- 慢性疾患の管理(糖尿病、高血圧の管理など)
- リフィル処方の権限
- 一部の処方権(協定に基づき、医師との連携が前提)
このような薬剤師の職能拡大には、アメリカの薬剤師会などの薬剤師団体が行ってきたロビー活動が大きく関わっています。
薬剤師が予防接種を実施したり、慢性疾患の管理に関わることで、医療費が抑えられ、さらに地域住民が薬剤師を頼りにしやすい環境が整えられてきたのです。
予防接種業務はどうやって薬剤師の仕事になったのか?
2007年当時、ウォルグリーンの店頭には、接種できる予防接種の種類が貼られていました。
今でこそアメリカでは薬剤師が予防接種をするのは普通のことですが、もともとはこれは医師の仕事でした。
そうした背景の中で、薬剤師が予防接種を行えるようになったのは、医療費削減と地域の医療サービス向上の両立ができると考えた薬剤師団体が、長年にわたってロビー活動を続けた結果なんですね。
この体験入学を通して、日本でも薬剤師の役割や教育の幅を広げていけば、もっと患者さんや地域医療に貢献できる、そんな未来の薬局薬剤師の可能性を感じることができました。
アメリカ薬剤師の仕事
日本とは違って、アメリカでは薬剤師の業務を支えるスタッフがしっかりと機能しています。
例えば、ファーマシーテクニシャン(調剤士)という公的資格を持った調剤業務補助スタッフが薬局には複数名いて、薬剤師の調剤業務をサポートしています。
これにより、薬剤師は服薬指導(コンサルティング)に集中できるような仕組みができているんですね。
アメリカの薬剤師業務の特徴
アメリカの薬剤師の仕事をもう少し掘り下げていきます。
下記の業務は、アメリカでは薬剤師の基本的な業務として地域住民に浸透しています。
- 予防接種
- リフィル処方箋での調剤
- 服薬指導や日常的なコンサルティング
たとえば、予防接種。
今のアメリカでは、予防接種は完全に薬剤師の仕事になっています。
多い薬局では1ヶ月に100回以上の予防接種を行なっている薬剤師さんもいます。
さらに、リフィル処方箋による調剤も当たり前のように行われており、薬剤師が患者さんの状態に応じた調剤を行う権限が日本より広がっています。
日本とアメリカの違い
日本では、調剤薬局に来店する患者さんの目的は主に医師の発行した処方箋の薬をもらいに来ることです。
アメリカでは、薬剤師は処方箋調剤に加え、リフィル調剤の判断や予防接種、日常的なコンサルティングも行っています。
これにより、薬剤師は地域住民にとって最も信頼される医療提供者であり、最もコストのかからない医療提供の場となっているんですね。
なぜアメリカの薬剤師が信頼されるのか?
薬剤師がここまで地域住民に信頼されるようになった理由は、ここまで紹介してきた法律や獲得してきた業務の変化だけではありません。
薬剤師自身の資質、つまりコミュニケーションスキルや患者さんとの信頼関係構築も大きく関係しています。
ここからは、アメリカの薬剤師がどのようにして地域住民と信頼関係を築いているのか、そのコミュニケーションスキルに焦点を当てて紹介したいと思います。
日本の薬剤師がこれから目指すべき姿も、きっとここにヒントがあるはずです。
【現地レポ】薬学部の教授にインタビュー
ワシントン州立大学での体験入学では、たくさんの経験と発見がありましたが、その中でも特に印象に残っているのが、ある女性教授との出会いです。
実は、私は幸運にもその教授の隣に座ることができ、インタビューを行う機会に恵まれました。
そのインタビューでは、驚くべき事実に直面しました。
彼女の話を聞いて、私の薬剤師教育に対する考え方が大きく変わる瞬間を体験したのです。
これは、大袈裟ではなく、本当に私の教育観を転換させるきっかけとなりました。
許可を得ていないので顔は隠しておきます。
インタビュー内容は下記のとおりです。
アメリカの薬剤師教育について少しお話を聞かせて頂けますか?
もちろんよ。
私も日本で薬剤師をしているのですが、アメリカの薬剤師と日本の薬剤師とでは、国民から信頼されている度合いに違いがあります。
実は、ウォルグリーンの薬剤師をインタビュ−している時に、薬剤師が地域住民から信頼されているんだなーと痛感する場面に出会いました。
(ここでウォルグリーンでのエピソードを紹介)
アメリカの薬剤師はなぜそこまで国民(地域住民)から信頼されているのですか?
そうね。
私達、薬局での薬剤師の仕事の8割は、患者さんのカウンセリングなの。
私達は、患者さんとのカウンセリングの仕事を大切にしているからかしらね。
なるほど。
患者さんとのカウンセリングの仕事を大切にしているんですね。
では、大学でもそういった教育を重視しているのですか?
そうね。
私達は、まずは入学の段階から薬剤師の資質があるかを見極めているわ。
大学に入学する際に、試験だけでなく面接を行い、その人物が薬剤師に相応しいかを試験と面接で選別しているの。
えっ!
大学入学の際に試験だけでなく面接も行っているんですか?
そうね。
薬剤師の仕事はコンサルティングがメインなので、その適性があるかを入学の際に確認しているの。
なるほど。
では教育内容はどんな感じですか?
コンサルティング力を鍛えるためのカリキュラムがあるのですか?
もちろんあるわ。
実は、私は薬学部を卒業して、現場経験をして、心理学の勉強し、今は学生に心理カウンセリングを教えているわ。
大学の教員は、ほとんどが現場経験者だわ。
大学の教員はほとんど現場経験者なんですね。
そしてあなたは学生に心理カウンセリングを教えているんですね。
全員が履修するカリキュラムに入っているわ。
ワシントン州立大学での教授インタビューを通じて、アメリカの薬剤師がいかにして高い信頼を得ているのか、その理由が少しずつ見えてきました。
特に、薬剤師としての信頼を築くための基盤は、大学の入学段階から始まっているという点が印象的でした。
そして特に驚いたのは、『心理カウンセリング』がカリキュラムに組み込まれている点です。
患者さんとの信頼関係を築くためのコミュニケーションスキルを学生時代から学んでいることに驚きを隠せませんでした。
日本の薬学教育とここが違うのか…
患者さんとの良好な関係を築くコミュニケーション力を学生のうちから身につけることは、薬剤師にとって非常に大きな武器になります。
そして患者さんと信頼関係を築くために必要なスキルは、薬剤師が提供するサービスの質に直結します。
アメリカでは、このような訓練がしっかりと大学のカリキュラムに組み込まれており、薬剤師が地域社会で最も信頼される医療提供者としてなっていける仕組みが構築されていました。
この発見は、私自身の薬剤師としての仕事のあり方に深い影響を与え、患者さんとの接し方を再考するきっかけとなりました。
次回予告
第1回目で紹介したウォルグリーンでの薬剤師インタビュー、そして今回紹介したワシントン州立大学での薬学部教授インタビュー。
この2つの経験を通して、私は帰国後、日本での薬剤師の職能拡大プロジェクトを上司と一緒に立ち上げ、形にしてきました。
次回の内容では、アメリカ研修で得た知見をもとに、日本で薬剤師職能を拡大するための具体的な施策を実施した経験をお伝えします。
今回と次回の記事を読んで、『確かに、こうすればいいんだな』と感じてもらい、ぜひ自分の職場でも実践してみようと思ってもらえたら幸いです。
日本も同じ6年制の教育を受けているのに、アメリカの薬剤師はなぜここまで信頼されているの?