前回に引き続き、今回は、『薬局薬剤師のコーチング』のシリーズ最終回の3回目です。
今回は、薬局の現場でのコーチングの事例を紹介します。
コーチングの実践は基本的には5つのステップで行い、3つの事例について具体的に紹介していきます。
ここで紹介する3つの事例を参考に、現場でのコーチングの実践を行ってみてください。
コーチングの5つのステップ
コーチングのスキルをいざ薬局の現場で使っていく際には、一つの型というか、成果の上がるステップ(手順)があります。
現場の事例紹介の前に、どんな事例にも共通して活用できるコーチングの5つのステップについて解説していきます。
結論から申しますと、下記の5ステップでコーチングを進めていくと良いでしょう。
- 目標設定
- 現状把握
- 目標と現状とのギャップの原因分析
- 行動計画
- フォローアップ
では、この5つのステップに関して、どのように質問していけば良いかのポイントを具体的に紹介していきます。
目標設定(質問のポイント)
・今、一番達成したいことは何かを聴く
・その目標を達成することで、相手にどんな変化(メリット)があるか聴く
・その目標をいつまでに達成したいか聴く
・その目標に向かって最初にどんな行動を取る必要があるか聴く
・その目標を達成するために、今の自分に足りないものは何かを聴く
・その目標達成の途中で、どんな障害があるかを聴く
・その障害を乗り越えるために、どのようなサポートが必要か聴く
→実現可能な具体的な目標を引き出し、本人が意識して進む方向を明確にしていくための質問が重要
現状把握(質問のポイント)
・今の自分の状況をどう感じているかを聴く
・今取り組んでいる中で、上手くいっている点を聴く
・目標に対して、現在の進捗状況を聴く
・目標達成に向けて、現時点で何が足りないと感じているかを聴く
・最近の成果や進展を聴く
・今のやり方で、うまくいっていない事を聴く
・うまくいっていない事に対して、どんな解決策を試したかを聴く
→現在の強み・課題・進捗状況を正しく把握することで、次のステップに進むための準備が整います
目標と現状とのギャップの原因分析(質問のポイント)
・目標に対して、どのようなギャップがあると感じているかを聴く
・そのギャップの主な要因を聴く
・なぜそのギャップが生じているか聴く
・現時点で、何が目標達成を妨げているかを聴く
・自分の行動がギャップにどう影響しているかを聴く
・ギャップを埋めるために、自分にできることを聴く
→相手がギャップを具体的に認識し、原因を深く考えることができます
行動計画(質問のポイント)
・目標達成のために、具体的にどのような行動をするか聴く
・行動を始める日を聴く
・行動の進捗の測定方法を聴く
・行動をするうえでの障害を聴く
・障害を乗り越えるための対策を聴く
・進捗確認のための振り返りのタイミングを聴く
→相手が具体的なアクションプランを立て、実行に移すための準備を整えることができます
フォローアップ(質問のポイント)
・目標に向かってどれくらい進んでいるかを聴く
・取り組み期間中に達成できたこと聴く
・予期しない問題や障害に直面したかを聴く
・今後の行動計画を聴く
・次のステップに進むために必要なサポートを聴く
・取り組み期間中に学んだことを聴く
→相手は自分の進捗を客観的に評価し、次の行動に向けた具体的な計画を立てやすくなる
コーチングに慣れないうちは、ここで紹介したステップ(手順)で、セリフも真似ながら進めていくと良いでしょう。
ではここからは、上記の手順(型)を参考にして、現場での3つの事例を題材にして、どのように指導していくかを紹介していきます。
【事例①】新人薬剤師の薬歴管理業務
まずは1つ目の事例です。
あなたの薬局に新人薬剤師が入社してきた際に、3ヶ月で薬歴管理についての業務を教えるときの訓練の仕方の具体例を挙げていきます。
今の新入社員は5回生の時に実務実習を行なってきているので、全く初めから教えることはしなくても、改めて薬歴管理業務の重要性を共有しつつ指導を進めていきます。
手順は先ほど紹介してきた5つのステップに当てはめてみると、下記の通りとなります。
目標設定
・薬歴管理を通じて患者さんに提供したい具体的な価値を聴く
・この3ヶ月で具体的にどういったスキルを身につけたいかを聴く
・薬歴を記録する際に重視したい指標を聴く(正確性、スピードなど)
→目標を自分自身で設定してもらう
現状把握
・実務実習などで薬歴管理は具体的にどんなことをしてきたかを聴く
・薬歴管理の業務を行うときに、どの点に不安を感じているかを聴く
・今の自分の薬歴管理のスキルレベルはどのくらいかを聴く
→質問から現状把握をしてもらう
目標と現状とのギャップの原因分析
・薬歴管理業務を振り返ってみてどんな課題があったかを聴く
・自分の知識・スキルのどの部分が足りていないと感じているかを聴く
・薬歴管理における具体的な失敗を聴く
→質問から目標と現状のギャップを明確にしていく
行動計画
・先輩スタッフから受けたいフィードバックはどんな内容かを聴く
・どのような学習リソース(書籍、ウェブサイト、研修など)を利用するかを聴く
・週次月次の具体的な目標設定を聴く
→どんな行動計画を立てていくかを具体的に聴く
フォローアップ
・薬歴管理業務で自身が最も成長を感じたところを聴く
・以前と比べて薬歴管理業務で、特に自信を持てた部分を聴く
・まだ改善が必要だと感じているところ(課題)を聴く
・今後、その課題に対してどのように取り組んでいくかを聴く
→良かった点、課題のある点の2つをフォローしていく
もちろんここで紹介した内容以外にも他にも色々な質問があると思います。
まずはここで挙げた質問内容を参考に、薬歴指導のコーチングの参考にしていただければ幸いです。
【事例②】患者さんの服薬指導
次に2つ目の事例です。
2つ目は患者さんに対しての服薬指導について指導(コーチング)していく事例です。
薬剤師の業務が対物業務から対人業務になってから、薬剤師の服薬指導業務は最も重要な業務の1つと言えます。
薬効・用法・副作用の説明だけでなく、アドヒアランスの向上など、薬剤師の服薬指導業務は奥が深く、今後もますます重要になってきます。
では患者さんの服薬指導のスキルを3ヶ月で上げていくためのコーチング事例を紹介します。
目標設定
・どのような方法で患者さんが正しく薬を服用できるようにサポートするかを聴く
・患者さんと信頼関係を構築するためにどのようなコミュニケーションをとるかを聴く
・この3ヶ月でどのような服薬指導のスキルを身につけたいかを聴く
→目標を自分自身で設定してもらう
現状把握
・今までの服薬指導で、できている所・できていないと感じている所はどこかを聴く
・服薬指導を行う時に、常に気をつけて行なっていることを聴く
・自分が服薬指導をした患者さんの反応や理解度はどれくらいかを聴く
→質問から現状把握をしてもらう
目標と現状とのギャップの原因分析
・患者さんが理解しづらかったと感じた部分はどこにあるかを聴く
・服薬指導でどういう時に不安に感じているかを聴く
・患者さんからの反応が思ったよりも良くなかった理由を聴く
→質問から目標と現状のギャップを明確にしていく
行動計画
・服薬指導で優先して改善したい部分はどこかを聴く
・服薬指導の質を高めるために、どのような訓練をするかを聴く
・服薬指導の具体的な改善目標と達成期限を聴く
→どんな行動計画を立てていくかを具体的に聴く
フォローアップ
・以前の服薬指導と比較して、自分が成長した所を聴く
・患者さんからの反応で、特に好評だった所を聴く
・今後さらに服薬指導の質を上げるために、どの部分に注力するかを聴く
→良かった点、課題のある点の2つをフォローしていく
服薬指導のレベルアップには終わりはないと思いますが、先ほどの薬歴記入の時と同じように、3ヶ月位のあまり長くない期限を設けて取り組んでいくと良いでしょう。
【事例③】スタッフのキャリア形成支援
最後の3つ目の事例です。
薬剤師のキャリアは人によって様々です。
最後の事例は、薬局薬剤師として働いていくうえでの、キャリア形成に関しての指導(コーチング)の事例を紹介します。
目標設定
・3年後、5年後に達成したいキャリア目標を聴く
・どの分野のスキルを伸ばしたいと考えているかを聴く
・理想的な薬剤師像を聴く
→目標を自分自身で設定してもらう
現状把握
・自分のスキル・知識で自信のある分野を聴く
・仕事の中で、特に成長を実感している分野・業務などを聴く
・今、どんなスキルをさらに磨く必要があると考えているかを聴く
→質問から現状把握をしてもらう
目標と現状とのギャップの原因分析
・現状と目標との間で足りない部分は何かを聴く
・必要なスキルや知識が不足している原因を聴く
・キャリア形成が思うように進んでいない要因を聴く
→質問から目標と現状のギャップを明確にしていく
行動計画
・次の6ヶ月間(短期間)で習得したいスキルや知識を聴く
・キャリアの次のステップにどんな経験や資格取得が必要か聴く
・今の仕事で挑戦してみたいことは何かを聴く
→どんな行動計画を立てていくかを具体的に聴く
フォローアップ
・キャリア目標に向けて、今回達成できた成果について聴く
・今回の成果が、3年後・5年後の目標達成にどう繋がっていくか聴く
・課題を乗り越えるために、どのようなスキルや知識を身につける必要があるか聴く
→良かった点、課題のある点の2つをフォローしていく
キャリア形成に関しては、いわば『強みのおしゃべり』のようなものから始めて、あまり重々しくならずに軽く入っていくのが良いでしょう。
その方が結果的に、最後のステップまで進みやすくなります。
まとめ
今回は、薬局薬剤師のコーチングの最終回の3回目、コーチングの5つのステップと、現場の3つの事例について具体的に紹介してきました。
今回紹介したコーチングの型(5つのステップ)を参考に、現場でコーチングを実施してみてください。
どんなスキルも同じですが、何度も何度も繰り返し行なっていくうちに段々と上手くなっていきます。
さて、コーチングについて3回にわたって研修を行ってきましたが、コーチングの入り口は対話から始まります。
対話を行うためには信頼関係の構築が重要で、そのためのコミュニケーションスキル(聴くスキル・話すスキル)についてもこのサイト内で詳しく解説しているので参考にしてみてください。
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