もしあなたが会社や薬局内で教育・研修担当ならまず最初に念頭に置いておくべきことがあります。
それは研修と勉強会の違い、そしてそれぞれのメリット・デメリットです。
教育・研修担当者は研修や勉強会を実施する際に、参加者から往々にしてこういった質問を受けます。
「この研修は出勤扱い(勤務扱い)なの?」
「この研修は強制参加ですか?」
「業務の都合で研修に参加できません」
こういった質問を受けた時に、教育担当者がその返答に困り、相手が納得する返答ができない場合があります。
これは教育担当者の責任ではなく、そもそも研修と勉強会の定義がはっきりしていなかったり、関係各位に研修の目的などがきちんと共有できていないから起こるものなんです。
こういった質問に明確に答えるためにも、教育担当者は研修と勉強会の違い、目的・目標などをしっかりと把握し、関係各位に事前共有しておく必要があります。
今回は、研修と勉強会の違いをしっかり把握し、また研修や勉強会のメリット・デメリットをしっかりと把握した上での、研修や勉強会の実施方法について解説します。
目次
薬局薬剤師の研修と勉強会の違い
まずはザックリですが、研修と勉強会の違いを解説します。
概要を掴むために表にまとめた方が良さそうですね。
表にまとめるとこんな感じです。
勉強会 | 研修 | |
---|---|---|
参加形態 | 自発参加 | 強制参加 |
勤務形態 | 休みを利用 | 出勤扱い |
実施内容 | 原則参加者の自由 | カリキュラム・教材・レポートがある |
運営方法 | 参加者による運営 | 会社の計画開催 |
開催目的 | 従業員の個人の学び | 従業員の育成 |
薬局薬剤師の教育を考える前に、まずはこの2つの教育形態の違いを頭の中で仕分けしておくことが重要です。
そしていざ教育項目を考えていく際には、その項目は研修形式で実施した方が良いのか、それとも勉強会形式で実施した方が良いのかで分類していく方が良いでしょう。
あとで詳しく解説しますが、研修や勉強会にはそれぞれメリット・デメリットがあります。
そういったメリット・デメリットをしっかりと理解した上で、薬局薬剤師の教育に対して、研修や勉強会を組み合わせて人材育成を行なっていきましょう。
では具体的にどういった内容が研修向け、勉強会向けなのか分類してみましょう。
薬局薬剤師の研修や勉強会に向いている内容
薬局薬剤師の人材育成を行なっていく際に、様々なコンテンツ(育成項目)がありますが、コンテンツの内容によっては、研修向きの項目と、勉強会向きの項目があります。
では具体的にどういった内容が研修向け・勉強会向けなのかを簡単に分類してみましょう。
研修に向いている内容
ここでは、まず『そもそも研修の目的は何のか?』に立ち返って考えてみましょう。
研修の目的は、一言でいうと『従業員の育成』です。
もう少し詳しく言うと、健全な薬局運営を継続的に行うために従業員のレベルを一定水準以上に上げることが目的です。
そのため研修向けの内容は、他の薬局との競争に勝つために、全ての従業員が保険調剤業務にまつわる仕事内容に関して、会社が定めた一定水準を超えることが必須となってくるような項目です。
具体的にはこの表の内容です。
- 調剤報酬関連
- 医療保険・介護保険制度関連
- マナー・接遇関連
- 保険調剤業務全般(レセコン操作、調剤、監査、服薬指導、薬歴記入)
- 薬局業務関連の法規
- コミュニケーション(傾聴、アサーション、コーチング)
- 問題解決力養成
- リスクマネジメント・クレーム対応
- 管理薬剤師の業務
もちろんここに挙げた内容はほんの一部ですが、これらの項目は、健全な薬局運営のために薬局薬剤師に必須の知識・技能(スキル)・態度(姿勢)を訓練するための項目です。
研修項目をもっと細かく分類すると、知識・技能・態度の3つに分けられます。
あとはこれらの研修を『現場で行うのか?』『集合研修で行うのか?』『テスト(検定)実施で行うのか?』を決めていき、それぞれの研修の効果を最大限に発揮できる研修形態を選んでいくと良いでしょう。
そして研修実施を通じて、一定水準以上の知識・技能(スキル)・態度(姿勢)を身につけた従業員を育成すこつとを目指していきましょう。
勉強会に向いている内容
一方勉強会の目的は、『従業員の個人の学び』です。
保険薬局での業務に関して一定水準以上のスキルを研修身につけることができたならば、より卓越した能力・スキルを身につけていくために実施するのが勉強会です。
勉強会の一例を挙げるとこんな感じです。
- 要指導・第一類医薬品の売り分け販売
- 薬歴記入(個別指導対策、時短記入の方法など)
- 服薬アドヒアランスの向上
- ハイリスク医薬品の服薬指導・薬歴管理
- 食事・栄養療法、生活習慣病・がん対策
- かかりつけ薬剤師のための患者支援
- 居宅在宅・施設在宅を行う上での薬局業務
勉強会は、さらにレベルの高い保険薬局を目指していくために必要となってくる知識や技能(スキル)です。
薬局内・会社内でその分野に卓越した知識と技能(スキル)を持ったスタッフ達が、その知識や技能(スキル)に磨きをかけ、それを他の薬剤師と共有していく学びの場です。
薬局内・会社内だけで対応できない場合は、社外の勉強会の参加や社外講師の依頼なども行いながら行なっていくのが勉強会です。
勉強会などで卓越したスキルを身につけた薬局薬剤師は、いずれ社内外で活躍する薬局薬剤師を生み出していくことに繋がっていくのです。
ではこの後は、社内研修、社内勉強会を開催していく上での3つの注意点について、それぞれ紹介していきます。
薬局薬剤師の研修を行うにあたっての3つの注意点
では実際に社内・薬局内で研修を行なっていく際に知っておくべきメリット・デメリット、カリキュラムの組み立て方について解説していきます。
研修のメリット・デメリット
研修を作成・実施する前に、まずは薬局薬剤師の人材育成のための形態である研修のメリットとデメリットを紹介しておきます。
- 特定のテーマに関して知識やスキルを体系的に学習できる
- 専門家やトレーナーから専門知識やスキルを直接学ぶことができる
- 一緒に研修を受けているスタッフ間で一体感を醸成できる(集合研修の場合)
- コスト(費用)と時間がかかる
- 現場実務ですぐに役立てることができるか不確実
- 強制参加なので参加者によってモチベーションのバラツキがある
研修には専門家から直接学べるというメリットはありますが、ここに挙げたデメリットもあります。
研修を実施したとしても、その場限りの学びにならないように、研修後のフォローアップや継続的な現場でのトレーニングなどを行なっていくことが重要です。
研修は必ず効果測定を実施する
研修の目的は従業員の育成です。
なのでその研修が受講者の行動変容にまで至っているかの効果測定が必ず必要です。
例えばこんな感じで効果測定を行うと、研修内容が受講者の行動変容に繋がっているかを測定することができます。
このように、研修項目、研修目的(何のための研修か)、研修内容(具体的な到達目標)を前もって受講者に示しておき、研修の受講前と受講後にアンケートを取ります。
そうすることで、研修受講前後で受講者の行動がどのように変わったか(効果測定)を知ることができます。
こういったアンケートを研修指導者だけでなく、その薬局の所属長なども巻き込みながら共有するとなお一層効果的です。
また、研修の中身に関しても改善を繰り返していくためにも、受講者アンケートを取ります。
例えばこんな感じです。
このアンケートは、できれば無記名が良いかと思います。
研修を実施する際には、こういった研修そのものの効果測定と研修内容のブラッシュアップのための受講者アンケートは必須となってきます。
研修カリキュラムの組み立て方
ここまで紹介してきた研修は主に集合研修を想定して説明してきましたが、
研修には薬局の現場で行うOJT(On the Job Training)と集合研修など職場から離れた場所で行うOFF-JT(Off the Job Training)があります。
それぞれの研修形態にもメリット・デメリットがあるので、それぞれの特性を活かしてうまく組み合わせていくことが重要です。
そういった様々な研修内容を体系立ててデザインしていく際に必要となってくるのがインストラクショナルデザイン(教育設計)という考え方です。
日本語に直訳すると『教育設計』と言う意味で、
効果的で効率的な教育プログラムを設計し、受講者にどのように実施していくかを体系的にまとめた理論やモデルのことを指します。
会社内・薬局内で人材育成を担当するならば、このインストラクショナルデザイン(教育設計)については、必要最低限のレベルでも良いので学んでおく必要があります。
インストラクショナルデザイン(教育設計)は奥が深いので、また別の記事で詳しく紹介していきます。
『どうしても詳しく知りたい!』と言う方向けに、初心者向け、中級者向け、上級者向けににおすすめの書籍を3冊紹介しておきますので、ぜひ参考にしてみてください。
初級者向け:研修デザインハンドブック
「教育担当者になって何から始めたら良いか分からない」
そういった教育担当者になりたての方にはこの本がおすすめです。
教育担当者として最速の近道で、一定レベルの知識とスキルを身につけることができると思います。
インストラクショナルデザインについて初心者でも凄く分かりやすく丁寧に解説してくれています。
私も教育担当者になった時に最初に読めばよかった、教えて欲しかった、そんな一冊です。
中級者向け:研修設計マニュアル
教育担当をしてしばらく経っているけど、「まだ一歩足りない。まだまだ成長の余地がある」と感じている中級者向けにはこの書籍がおすすめです。
私はこの本を読んだ時に、「自分の行なっていた研修はなんて独りよがりで、直感的に研修を組み立てていたんだな〜」と痛感しました。
教育担当をしてしばらく経った方は一度読んでみると、一皮剥けてさらにレベルアップできる良書です。
上級者向け:研修開発入門
書籍の題名は研修開発入門となっているので入門書と思いきや、とんでもありません。
これはベテランの教育担当者が知っておくべき内容が網羅されています。
社内、薬局内の教育担当者は、どうしても教育のことに目がいき、教育を経営課題の解決の視点で組むところまではなかなか到達できません。
この書籍は、他社と比べても抜きん出た存在になるために、『会社経営に貢献する教育設計の仕方』を学べる、教育担当者上級者向けの書籍と言えます。
この視点(経営者視点)を身につけた教育担当者はなかなかいないので、2冊を読んだ後にはぜひ読んでみてください。
薬局薬剤師の勉強会を開催するにあたっての3つの注意点
では次に社内・薬局内で勉強会を行なっていく際に知っておくべきメリット・デメリット、テーマ決めなどについて解説していきます。
勉強会のメリット・デメリット
勉強会を実施する前に、勉強会の開催のメリットとデメリットを紹介しておきます。
- 専門知識や経験知を共有し更新することができる
- 専門分野の学びに関して薬剤師としてのネットワークを広げることができる
- 同じ薬剤師の交流を通じてモチベーションが上がる
- 参加するのに自分のプライベートの時間を要する
- 勉強会の内容が自分に合わない場合がある
- 提供される情報の信憑性が担保できない場合もある
勉強会にはこういったメリット・デメリットがあるため、そのことを踏まえて開催を推進していきましょう。
現場の業務に役立つテーマ決め
勉強会のテーマは、自由でも良いのですが、必要最低限の条件を決めておくと良いでしょう。
出だしからあまり制限を多くすると勉強会の発足そのものが事前審査で無くなってしまうので、最初は、『現場の業務に役立つこと』くらいに緩くしておくと良いでしょう。
そして勉強会が発足し出したら、開催条件を改善していくと良いと思います。
開催条件を満たす項目としては、下記のような項目を参加者に示しておくと良いかもしれません。
- 薬局薬剤師のどの業務に関連するテーマの勉強会なのかを明示する
- 参加すると具体的にどういった知識やスキルを得ることができるか?
- 情報の鮮度は最新の情報やトレンドと合致しているか?
- 参加者のレベルはどのレベルを想定しているか?
一部を挙げましたが、勉強会の開催をアナウンスする際には、こういった情報があると参加者も勉強会に参加しやすくなります。
勉強会は自発運営を促す仕組みを考える
社内や薬局内で勉強会の開催を推奨しても、教育担当者の意図に反してほったらかしでは勉強会ってなかなか簡単には発足しません。
そこで、会社の方で勉強会が発足しやすい環境作りを行う必要があります。
例えば勉強会開催を推進するために必要な項目としては、下記のようなものがあります。
- 勉強会を行うための場所の提供
- 勉強会で使用する書籍、資料、教材など
- 勉強会講師の手配(社内外)
- 勉強会を行う際の飲食物の提供
- 社内でのアナウンス(社内報・メールなど)
- 勉強会参加者のスキルアップ認定制度
- 交通費・駐車場代などの補助
こういった環境を会社側が整えておくと、薬局薬剤師の勉強会は発足しやすくなります。
また勉強会の開催者、参加者には一定のポイント付与などを行い、そのポイント多いスタッフを評価する仕組みにしておくと、勉強会開催はさらに加速します。
まとめ
今回は、薬局薬剤師の研修と勉強会の違いから始まり、それぞれのメリット・デメリットを踏まえたうえでどのように開催していくかについて紹介してきました。
あなたが教育担当者なら、まずは研修と勉強会の違いを明確にする必要があります。
そしてこの教育項目は研修向き、勉強会向きと振り分けを行った後は、それぞれの特性を踏まえた上で、うまく組み合わせて開催していく必要があります。
記事の途中で紹介した書籍も参考にして、あなたの薬局・会社に合ったオリジナルの教育体系を作り上げていってください。
この記事は以下のような方におすすめです。